1. 2年前
1-1.ニラ
僕は『西島昂』、妹は『西島栞』という。 僕が大学4年生、妹が高校3年生の時のことだ。家族全員ハイキングが好きで、一家全員で六甲山にハイキングにやってきた。 六甲山からの下り道で車道を通るところがあった。僕たちは路側帯を1列になって歩いていた。 後方から黒い車が猛スピードでやってくるのがわかった。 六甲山にはこんな輩が時々出ると聞いていたが、僕たちは、
「よけるだろう。」
と思った。
しかしそれは甘かった。 車は僕たち4人を次々に撥ね飛ばし、ガードレールにぶつかって止まった。 父と母は10mほど下の岩盤に、僕と妹は草むらに落ちた。 父が、
「みんな、大丈夫か。」
と苦しそうに言った。 母は
「体が動かない」
と応えた。 妹は気を失っていた。 僕は足が痛くて動けないと言った。
道路から4人の男がこちらを見ていた。
「大丈夫。何か言ってたから大丈夫やろ。」
「ニラ、またやったのかよ。轢き逃げは2回目やで。」
「まだ、逃げとれへん。まあもうすぐ逃げるけどな。」
呂律の回らない口調だ。
「救急車、呼ばへんのんか?」
「そんなことしたら、バレるやろ。親父にもみ消してもらうんやから。」
「ニラ、なんぼ親が議員やいうても、轢き逃げはまずいで、死んだらどないすんのんや。」
「そんなん知らん。ぱれへんかったらええんや。 わかっとうやろ。 ムラ、トン、タケ、ほら行くで。」
「ニラはしゃあない奴やな。」
「お前らも同じやんか。」
彼らは半ば壊れた自動車に乗って行ってしまった。 どこかで父親にでも迎えにきてもらうのだろうか。
僕は救急車を呼ぼうとして携帯を捜したが見つからない。 落ちたときにどこかへ飛んでしまったのだろう。 足が痛くて立てないので、妹の傍まで這って行き、3足を叩いたら妹が目を開けてくれた。
「119に電話して、救急車を....」
「お兄ちゃん」
僕はそのまま気を失った。
夢の中で繰り返した。 許さへん、ニラ・ムラ・トン・タケ。
1-2. 九条
妹は、
「車に轢かれた....六甲の....ドライブウェイ...」
と言ったところでまた気を失ったらしい。 救急車は事故現場がわからず、出動しようにもできず困っていた。捜索隊も出たそうだが、僕たちは気づかなかった。
やがて、近くを歩いていた九条さんという中学生っぽい女の子のハイカーが、事故から2時間を過ぎた頃ようやく僕たちを見つけてくれた。 なんでこんな崖の下を見たのか判らないが、とにかく九条さんがいなかったら、僕たちは全員死んでいただろう。 病院は事故現場から救急車で10分とかからない場所だった。
九条さんは私たちの意識が戻るまで付き添ってくれた。九条さんはつい先日、アメリカから帰ってきて、今は北野町に住んでいるとのことだった。
父と母は病院に着いて間もなく亡くなった。 あいつらがすぐに救急車を呼べば助かったかも知れへんのに。 崖の下に落ちた時は喋っていたんだ。妹は頭を打ち、生え際にキズができたうえ、右腕と右脚を骨折していた。 僕は両脚骨折の上、頭を強打していた。 翌日、九条さんがやってきた。
「あの2人を転院させたいねん。救急病院はできるだけ開けとかなあかんし。」
そして頭の周りをドライヤーみたいな機械で測定すると、
「やっぱり思った通りや。」
と言って、
「車は用意してます。」
医者は何も言わなかった。
「今から九条総合病院に行ってもらいます。」
車椅子でそのまま乗れる車に乗って九条総合病院に向かった。僕が入った部屋は6畳ぐらいの個室だった。妹は同じ作りの部屋にいるとのことであった。ここでは階ごとに男女が分かれているようだった。
父母の葬儀をどうしようかと考えていると、また九条さんがやってきて、九条会館という葬儀社の社員を連れて来た。全国的に有名な葬儀社だ。実際に手続きをしたのはこの社員なんだけど。立派な葬式をしてくれた。父は土建会社の重役だったから多くの弔問客があった。九条会館の女性6人が受付をしてくれていた。弔問客の多くはなぜか九条さんに丁寧に頭を下げていた。
僕たち兄妹は車椅子に乗ったままで焼香をした。 その後の行事もすべてやってくれ、香典を全額僕に渡すと、
「お返しは即日返しで行ったし、式の支払いも済んでいるから。」
と言って帰って行った。
妹も僕も退院まで1ヶ月ぐらいかかることとなった。 転院前の病院が3ヶ月ぐらいと言っていたので、ここはよほど優秀な医師がいるのだろう。
「何かあるなら連絡して。」
と、九条さんから名刺をもらった。 黄色の硬化プラスチックの名刺なんて見たことなかった。
「九条グループの店やったら2割引きで買えるし、キャッシュカードにもなるで。」
やがて、大学と高校を卒業すると僕たちは就職をした。 妹は三崎銀行神戸支店という、最近経営者が変わったとかで、業績を伸ばしている銀行に、僕は九条物産という一流商社に就職した。 どちらも自分たちの力では入社が難しかったが、運よく入ることができた。葬式の時もだったが、時々聞いた「九条の姫様」とは誰だろう。僕たちは住み慣れた家を売って、1人暮らしを始めた。 九条さんからもらった名刺はキャッシュカードにもなったが、3万円入っていた。 使っても翌朝には三崎銀行鳥取支店から九条名義の振り込みで3万円になるよう振り込まれていた。 僕たちは九条さんに感謝して、お守りとして使わずにおこうと決めた。
でも忘れへん、ニラ・ムラ・トン・タケ、許さへん。
1-3.予知夢
それから2年後のことである。
「あ~き~ちゅん。」
「出たな。いらんときに、神戸オリンピックの予想でもやるんか? 」
「そんなんしませんがな。柔道はあきちゅん一択でしょう。」
「誰が『あきちゅん』や。」
「あきちゅんが負けるわけないでしょう。人間の反射速度より速く動けるなんて、本気ならやりたい放題でしょう。」
「そこは手加減しとるがな。反射速度より速く動いたら見えんらしいから。それで今日は何の予想をしてくれるんや。」
「私は犯罪専門なんですわ。時々外すこともありますけど、あんな競馬予想に毛が生えたようなんと一緒にしてもろても困ります。」
「そやけど、犯罪なんか起きてないで。」
「これから、六甲山で連続殺人が起こります。一見犯人に見える人がいますが、最後には真犯人に殺されるかも知れません。この事件の鍵は『立夏ちゅん』です。『立夏ちゅん』によろしく。」
「....というとった。『立夏ちゅん』、よろしく。時々六甲山へ行ってみてな。」
「誰が『立夏ちゅん』やねん。秋の予知夢は事件の予感と来たもんだ。」
「『立夏ちゅん』が事件の鍵らしいねん。はずれも多いから。まあ、嘘7割と
いうところで。」
1-4.国立六甲山中・高
秋は現在は東京のW大学文学部に在籍している。
生まれてからずっと神戸に住んでいた。神戸と言えば百万都市の印象があるが、何故か街の北側が900mを超える六甲山になっている。六甲山のロックガーデンにはイノシシ村というものがあり、野生のイノシシ天国となっている。イノシシはイノシシ村だけでなく、山中や街中にも出没する。
秋は、元町や三宮などの繁華街へは、ほぼ行ったことがない。
秋の通っていた中学校・高校は国立六甲山中学校・高等学校で、3学年1クラスという、来たる生徒減少に伴う少人数学級のモデルスクールである。毎年小学校を卒業する児童を10人だけ募集するので、一般にはほとんど知られていない。
六甲山は山麓から山頂までケーブルカーがあるが、秋はケーブルカーに乗っことがほとんどない。自宅から学校まで毎朝30分ぐらい走って通学していた。普通のハイカーは2時間ぐらいかかると知ったのは、かなり後のことである。他の生徒はもれなくケーブルカーを利用していた。当然と言えば当然だが、秋は同学年の中では抜群に運動能力が優れていた。それが『ギフテッド』だと知ったのは最近のことである。秋は中3と高1の時に全日本柔道大会を優勝しているが、以後、柔道の大会には出ていない。病気のために柔道どころじゃなかったのである。
秋は高校2年生の時に脳腫瘍に罹り、手術と放射線治療を行いなんとか一命は取りとめたものの、欠席が長く留年となった。それを機に秋は六甲山高校を中退し、山の下にあるお嬢様進学校として有名な国立東灘女子学院に編入したのである。
柔道場を趣味でやっていた祖父は父がショボかったので、秋を古武術西園寺流の跡継ぎにするつもりだったらしい。中学校3年でやっと柔道の初段の試験を受させてもらえた。現在も心身の成長が足りないとのことで初段のままである。早く2段に上がりたいと秋は思っている。しかし、古武術西園寺流は師範をしており、強いかと言えば、滅多やたらと強い。(本人は師範代だと思っているが、前師範より間違いなく強い)
2.ビーナスブリッジの幽霊
ビーナスブリッジは六甲山上の展望台よりも市街地に近いため、神戸屈指の夜景スポットであり、カップルに人気のデートスポットである。しかし、ここでは女性の霊が出ると言われ、結構有名な心霊スポットでもある。
これは噂だから真偽の程はわからないが、過去に殺人事件があったという。話によると何者かがデートしていたカップルの後を付け、男性を刺殺した後、女性を強姦し絞殺したというものである。幽霊が出る場所は8の字の先端辺りが多いらしい。
都市伝説は色々の話が存在する。私はこのように聞いているが、もし知っている話と違うなら、笑って許して下さい。
2ー1.ビーナスブリッジ
W大学は夏休みに入った。この頃神戸では、盗難や窃盗、暴力事件、婦女暴行事件、殺人事件などが頻発していた。
そんな時、警察に、
「ビーナスブリッジから人が落ちるのを見ました。白い着物を着た女が下から、男の首を掴かみ落とした。」
か細い女の声で電話があったの夕暮れ時である。デートで助手席に座っていたので、見てすぐに電話をかけてきたと言っていた。恐らく夜景を見に来たのだろう。
ビーナスブリッジとは、諏訪山公園からレストランに登る道の、一番上にある8の字、または∞のループをした歩道橋である。ビーナスブリッジを登るとレストランの他に展望台がある。神戸では人気のあるスポットで展望台には、愛の鍵モニュメントがあったりする。特に夜景に人気があるが夕焼け小焼けで日が暮れるのもなかなかである。
しかし、ビーナスブリッジは神戸の都市伝説の一つに入っており、ループの先っぽ付近によく幽霊が出るという。今回落とされたという場所だ。もう何人も見ている。地磁気の影響と言う人もいるがよく判らない。そんなことを言う人に限って、地磁気って何か知っていない。誰かが言った通り、
『真実はいつもひとつ』
であるはずなのだが?
不思議なことに警察が電話をかけ直しても、全く反応しなかった。すぐに携帯を壊したらしい。携帯番号から氏名を調べたところ、『花津 真理』といういかにも嘘くさい名前で、静岡の大井村に住んでいる者であった。これまた嘘くさいというか嘘である。大井村は静岡市に合併されたはずだった。
※レストランは実在する。眺めがいいので混んでいる。予約した方が良い。
都市伝説関係の事件は、捜査十四課の平山警部が担当していたが、その日は休みを取っていた。部下の高崎も休みを取っていたので、実際に捜査ができる状態ではなかった。
平山警部は23歳にして警部になった秀才だったが、この日は有馬温泉にいた。部下の高崎はどこにいるのかわからず、どうも携帯の電源を切っているようだった。たぶん、デートなのだろう。高崎と同期の山寺は何をしていいかわからず、おろおろするばかり。
そうだ、とりあえず話を聞かなければ、近いところだし何かやっとかないと叱られると思い、現場に向かったが途中で鑑識課にもきてもらわなあかんことに気が付いた。とりあえず、証人は兵庫県警に連れて来た。
その他の連中はオカルト好きだったために、この部署配属の希望を出した輩たちなのであてにならない。そうしてる間に日付が変わってしまった。
十四課は都市伝説の『都市』から取ったものであるが、都市伝説関係の事件なんて、そんなにあるものではないらしく、有給休暇の取得率が兵庫県警トップという部署であった。
2ー2.白い着物を着た女
兵庫県警十四課は翌日から捜査に入った。この初動捜査の遅さが事件をややこしいものにしていった。
死体を発見したものは数人いて、九条という女の子が電話してきた。そこにいた者は九条が名前と連絡先を書いて、メールで警察に送っていた。川内宗太、特牛由真、餘部成彦、神酒好実の4人である。
「難読漢字のオンパレードやな。」
「センダイとコットイです。」
「トクウシではないんですね。」
「私たちは、アマルベとミキです。」
「ミキって名字ですよね。」
「君は?クジョウというのかな?」
「クジョウリッカです。私は全員読めましたが。」
秋の話やから何か事件が起こると思とったけど、早速当てるとは、不思議や。いつも外すのに。もしかして3割の当たりがきとるとか?
川内と特牛、餘部と神酒それぞれデートだった。九条は一人で散歩がてら諏訪山公園を歩いていた。偶然であるが、全員大学生だった。
「お前は中学生とちゃうんか?」
平山警部の言葉に、
「ちゃいます。W大文学部の1年生です。」
「信じられへんな。何か証拠を出せや。」
「あんた、言葉遣いがなっとらんな。そない言うんやったら証拠出したるわ。」
立夏は警察庁に電話を掛けた。
「もしもし、警察庁?深泥警視正をお願いします。」
「はい、代わりました、深泥ですが。」
「私や、私が私である証拠を出せと、県警の警部ごときが言うんやけど、六甲山がなくなってもええか?その土で人工島でも作ったらええやんか。」
「そ、その警部と代わってください。」
「どなたでっか?誤魔化しはきかへんで。」
「もうええわ。六甲山を消したら誰かわかるやろ。」
「テレビ電話にしてくれぇ~。ほれ、警察手帳じゃ。警察庁の警視正だ。その人は九条ホールディングスの次期当主の九条立夏さんだ。現在は、九条ホールディングスの筆頭株主だ。早く謝らんと、君の切腹だけではすまんぞ。一族郎党打ち首ということもあるかも。六甲山を消し飛ばされるのとどっちがいい?」
「警察庁の警視正!普通に昇進できる最高位やんか。40歳前でそこまで昇り詰めるとは優秀な....」
「失礼な、30歳ちょうどで未婚じゃい。だいたい、普通に昇進できる最高位と違う。警察組織を知らんのか。」
平山警部はラベンダー色の顔色になって、
「知らなかったとはいえ、申し訳ありません。」
と土下座をした。
「今は江戸時代か?」
「それでは死体を見つけた経緯を教えて下さい。」
川内「死体が転がっていました。」
特牛「死体が転がっていました。」
餘部「死体が転がっていました。」
神酒「死体が転がっていました。」
九条「死体が転がっていました。」
「その前後のことを言わんかい。」
川内と特牛「デートをしていたら、死体が転がっていました。なぜか今日になって、警察署に引っ張りこまれました。」
餘部と神酒「下心があって、デートをしていたら、死体が転がっていました。なぜか今日になって、警察署に引っ張りこまれました。」
九条「私はちょっと事情が違います。散歩をしていたら、死体が転がっていました。なぜか今日になって、警察署に引っ張りこまれた上、中学生に間違われました。」
そうこうしてる間に、布引の事件が起きてしまった。
まず、ビーナスプレッジの死体が誰かを特定しなければならない。
「被害者は年の頃20代~30代、やや中肉中背、やや筋肉質、やや日焼けしている。AIを使って書いたところによると、目はキツネ目、鼻はやや大きめ、唇は分厚く、口はやや大きい。
このような特徴の男がいなくなったなら、警察へタレこんで下さい。」
という放送をしてみた。
「そんなあいまいな情報を流してどないする気や。あてはまる男はなんぼでもおるわい。」
という電話やメールが来たのは言うまでもない。
警察には1件だけ、昨夜から「竹光 剣」という男がいないようだと連絡が入った。
「顔は警察の発表とは全然似てないんですよ。毎夜毎夜酒を飲んで騒いでいたのが、夕べは静かだったもんで、『竹光』だったらいいなと....あ、いや、『とどめを刺せずに残念です』いやいや、もちろん私は殺してませんよ。」
「よっぽど嫌われていた男らしい。」
竹光の部屋に落ちていた髪の毛で、DNA鑑定したら本人とわかった。年齢は19歳、何回か補導されており、記録が警察にあった。恥ずかしいことである。
被害者情報があったので、いい気になった警察は犯人探しに打って出た。これが当たれば一気に犯人逮捕となるかもと期待した。
「白い着物を着た髪の長い女性を、ビーナスブリッジ付近で見たことのある人は連絡して下さい」
という放送をしてみた。その結果、ビーナスブリッジで幽霊らしいのを見た人は、意外に多いことが判った。だから、よく幽霊が出ると言う噂があるんやんか。
「犯人は、竹光から暴力事件、婦女暴行事件、殺人事件を受けた被害者かその関係者に違いない。」
と平山警部は思った。そして、
「竹光と関係あると思われる事件を調べろ。」
と指示を出した。誰でも思うことである。
警察庁内に同じ頃、深泥警視正が、
「仕事を手伝って欲しいので、4~5人応援を頼みたいんだが。」
と応援を募集したところ、20人以上の希望者があった。仕事は警察庁にある犯罪記録から竹光のものを探し出す業務であった。
「やっぱりピーちゃんよ。遊び慣れてる感じがたまらないわ。」
いや、感じじゃなくて、ほんとに遊び慣れてるんだけど。
「トコちゃんもいいけど、秋様のところへ柔道の修行に行ってるらしいわよ。」
「聞いたところによると、秋様は神戸オリンピックに出るそうよ。」
「秋様ってそんなに強いの?柔道体型じゃないよね。私たちと変わらないわ。」
「そうね。でも、前の世界選手権で優勝してるし、今度の世界選手権でも優勝候補じゃないのかな?」
「トコちゃんはオリンピックどうなのかな?」
「ちょっと難しいという前評判よ。でも秋様のところで死ぬほど絞られてるらしいわよ。」
「なんとか、出場してほしいよね。」
「弓道という種目があるなら、ピーちゃんは確実に日本代表なのに。」
話は進むが仕事は進んでいない。
2-3.8の字
立夏はニューヨークの親元へ行くのも煩わしかったので、神戸の秋の実家にいた。そして立夏のお目にかなったのが、ビーナスブリッジの事件である。
「犯人は、ビーナスブリッジから落ちるのを見たと電話をしてきた女が関係しとるわ。」
「なんでわかるのん?」
「夕暮れのデートならレストランからの夜景を見るんやろう。食事したらちょうどええ時間やから。」
「するとどうなるん?」
「するとどうなるんやろな?」
「また、頭の中が真っ白やで。」
「なんで私の頭の中が判るのん?真っ白やけど。電話の女の車は登りということや。ところが女の言う殺人現場は見えへん。」
「なんでそうなるんや。」
「だって、手すりの向こう、しかも夕暮れで見えにくい時間帯や、そのうえ草木の陰に入るからや。下りはもっと見えにくいで。愛の鍵モニュメンと間違えて鍵がわんさかぶら下がっとるのが、邪魔するからや。だいたいが、8の字の先端なんか見えにくいこと限りなしやで。多分、捜査を混乱させるための電話やな。」
その時、目撃者が見つかった。まあ展望台に行ったら、偶然その時の目撃者がいただけのことである。
「展望台に結構人がおったと思うんやけど、8字の先端には4~5人おったように見えたで。ロマンチックな場所やから、見た人は他にもおるんちゃうか。被害者や犯人の名前や居所は知らんで。しかし優秀な日本の警察や、僕らの証言で、すぐに犯人を捕まえるやろ。」
そんなわけがあるか!
立夏がスカイに電話をすると、
「とにかく応援のピーチをそちらに送る。」
「それにしても、秋がおらんと、今一つ、気がのらへんな。」
それから電話を掛けて迎えの車を呼んだ。
モモことピーチはその日の夜9時頃に、新神戸駅に着いた。西園寺家に着いたのは9時半頃であった。弓道の全国大会優勝者と紹介したところ大歓迎になり、真夜中まで宴会となった。何かと理由をつけては宴会をする連中である。
ビーナスブリッジ
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展望台から見た長田方面
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3.布引の滝の竜宮
昔々、布引滝の麓に翁と娘が住んでいた。
娘は毎日滝に打たれる修行を続け、不思議な力を身につけた。龍神の姿となり妖怪を退治し、弁財天の姿となって困っている人々を助けた。いつしか人々は、娘を『大龍王』とか『弁財天』と呼んで信仰するようになった。人々は修行を続ける娘を『乙姫』と名付け、滝壺を龍宮と呼ぶようになり、娘が滝に打たれるさまを白い布をまとう乙姫に見立て、この滝を布引の滝と呼ぶようになった。
都市伝説は色々の話が存在する。私はこのように聞いているが、もし知っている話と違うなら、笑って許して下さい。
3ー1.雄滝からの落下
ビーナスブリッジ事件の翌日のことである。
多くの人から一斉に電話がかかった。しかし十四課の主な課員はビーナスブリッジの事件に行ってしまって、電話番と他部署からの応援部隊しかいなかった。
「布引の雄滝から人が滝つぼに落ちた。」
布引の雄滝は40mぐらいの高さがあるので、落ちたらまず死ぬことは間違いない。
布引の滝は新神戸駅から15分で行けるかな?という距離にあり、登山道の入口でもあるので人気がある。だから多くの人が見ていても不思議ではないのだが、通報者が30人とあまりに多いので何故か聞いてみた。
地元の名門高校のハイキング部が親睦ハイキングをやってた。たいていは登山部という名称なのだが、そこは女性受けするように「ハイキング部」と名乗っている。この日は布引の滝からハーブ園へ行って親睦を深める下心丸出しのコースであった。
高校生たちは布引雄滝を見ながら休憩してたところ、目の前に男が落ちてきた。15分ほど歩いただけで休憩するなよと言いたいが、そこが「親睦」の意味である。今どきの高校生は全員携帯を持っているから、全員が一斉に警察に電話した。女子が3人ほど気が動転して倒れたので、救急車を呼んだ。
車が通れる道は崖の上の高い所にあり、生徒が倒れたのは布引雄滝を見るために架けられた橋で、川底にある。道路までは300mほど急坂を登るので、一番の美人を救急車へ運んだ後は、男子は運ぶのを嫌がった。美人でも重いものは重い、腕がしびれるのである。
死んだのは、『東山 京』という不良で19歳、2年前までは『竹光』とツルんでいたが、最近は交流がなかったらしい。改心したわけでもない。もちろんDNA鑑定を行って本人の確認をしている。こいつもまた、何回も補導されており、2年前までは『竹光』と一緒に補導されたこともある。
竹光と東山が関係した事件で、平山警部は時々一緒にツルんでいた「酒場」という男に行きついた。平山警部が「酒場」を締め上げて聞き出した情報は、
「ニラ・ムラ・トン・タケの4人は2年前までツルんでいたが、六甲山の事故の後、離れ離れになった。六甲山の事故についてはよく知らない。」
3ー2.白い洋服を着た女
滝を上からみていたという女から電話があった。彼女は道路より一段低い、展望台から見たという。布引雄滝の上から人が落ちるのを見たが、後ろから白い洋服の女が突き飛ばしたというものであった。
しかし、滝の落口に降りるは道はない、獣道ぐらいなら、いくらかあるかも知れない。水流の両側が崖になっていて、なかなか川に降りられない。白い洋服を着た女なら、服がかなり汚れたに違いない。しかも布引雄滝は上部で2段に分かれている段瀑であり、写真の落ち口が1段目と2段目の段である。つまり上流から落としても段に引っかかってしまうことがある。となると動き回る人間を落とすのは難しい。死体を落としたのではないかと考えられた。
「汚れた白い洋服を着た女を、布引雄滝付近で見た人はすぐ警察までご連絡下さい。」
という通知を出してみたが、反応はなかった。当たり前である。着替えたに決まっている。死体は布引の滝から落ちて死んだものではなく、前日にどこからか落ちて死んだものとわかった。
立夏が言う。
「展望台からほんまに滝の上部が見えるんか?」
ピーちゃんが、
「木が茂ってて、滝は全く見えません。」
と答えた。
「では、姫様はどのようにして、段に引っかからんと落としたと思われるのですか?」
「偶然じゃあかんねんやろ。」
「ちょっとボク好みじゃありません。」
「例えば弓のようなもので死体を飛ばすなんてどうや?ピーちゃん、那須与一に次ぐ弓の名手やし。」
「うふふ。まあ那須与一ぐらいチョロいですけどね。弓で飛ばすのがいい。推理小説のトリックみたいです。」
「そう思うんやったら、木に何か証拠が残っとらんか調べてみたら?」
「調べます。と言うても調べるのは兵庫県警ですが。」
「そんな手間なことするとも思わへんけど。」
「調べるときに川に落ちんようにな、また、高校生が3人失禁するで。」
「兵庫県警によく言っておきます。」
「二人で力を合わせて投げた方が、お手軽やと思うけどな。一人でも投げれるわ、秋やったら。」
「秋さん怒りますよ。」
「それにしても、秋がおらんと、今一つ、気がのらへんな。」
「今日からボクがいます。」
「あてになるんか?ピーちゃん。まあ一応、警察庁の警部か。」
「大きな弓で死体を飛ばす」の図 ピーちゃん=ピーチ=桃=深泥桃㊚ 作
1.両岸のよくしなる木にロープをかける。2.一番奥を固定ロープで固定する。
3.死体を一番奥に乗せ、固定ロープを切る。
4.死体を前方に飛ばす。
5.装置を回収する。
4.摩耶観光ホテル
摩耶観光ホテルはかつて摩耶山の中腹にあったホテルである。 国内有数の美しい景色の廃墟である。 しかし、この辺りは摩耶山忉利天上寺の霊山であり、巨大廃墟の心霊スポットとしても知られている。
綺麗な景色が見える部屋が連なっているが、風呂場やトイレは霊的に危険な場所に作られている。 1976年に忉利天上寺が火災によって移転したため、霊が集まってくるという人もいる。 立入禁止になっているにもかかわらず、様々な霊の目撃情報がある。立入禁止の表示がなかった頃は、自然に摩耶観光ホテルに入ってしまう登山コースがあった。 その頃、私も摩耶観光ホテルに迷い込んだことがある。 都市伝説は色々の話が存在する。私はこのように聞いているが、もし知っている話と違うなら、笑って許して下さい。
4ー1.摩耶観光ホテル
布引雄滝事件の翌日のことである。 摩耶ケーブルとロープウェイの乗り継ぎ駅にある摩耶観光ホテルの入り口付近で丸まった形の死体が発見された。 死体は『村落 永』。不思議なことに摩耶観光ホテルに行く道路はなく、ケーブルカーやロープウェイを使うか。摩耶山の掬星台という展望台から、400段ぐらいある旧天上寺の急な石段を下るか、他の登山道を登るしかない。 かなり屈強な男でないと死体をかついで摩耶観光ホテルに行くのは難しそうだ。 すると、被害者を歩かせて400段ぐらいある石段を下りるか、登山道を登らなければならないことになる。
しかし、死体は死後2日ぐらい経っていて、被害者を歩かせて現場に来ることもできない。 死体を担いでどうにかしないと摩耶観光ホテル前に捨てることはできないのである。
実際に可能なのは、ロープウェイかケーブルカーしかない。 他の道は青谷道しか使えないがそこそこ石段を歩かないといけない。 死体をリュックに詰めとけば、2人なら移動も可能だろうが目につきすぎる。 力持ちなら1人でも可能かも知れない。リュックの中を見せることを要求されたら困るが、そんなことは殺人事件でもないと要求されない。しかし、実際は全てこれしかないのである。死後硬直が起きてしまうとリュックにさえ収まらない。そりゃ、ばらせばリュックに入るだろうが、そうするとバラバラ殺人になってしまう。唯一可能なのは殺した直後に、そうするとリュックに詰めてケーブルカーなどで、摩耶観光ホテルまで持っていくことしかない。
平山警部はこの連続殺人については、完全にオロオロとして役に立たない状態である。 高崎もなんとかしてやりたいと思うが、自分もオロオロしてなんともならない。 こうして捜査は思いの外遅れていくのであった。
◎ロープウェイ
時間制限有
◎ケーブルカー
時間制限有
△摩耶掬星台から石段
階段の下りが難
△青谷道から石段
途中まで単車使用可
×上野道その他
つらい
4-2.黒いメイド服を着た女
被害者は転落死と考えられた。では、どこから落ちたのか? 2日前に転落した死体をロープウェイかケーブルカーを利用して摩耶観光ホテルに持ち込んだと考えられる。 平山警部は、
「よし、乗客名簿を見せろ。」
と言ったが、
「そんなもん、あるわけないやろ。長距離船でもあるまいに。」
と一笑された。
「荷物の大きさのきまりがあるやろ。」
「あることはあるけど、登山客が多いから荷物もおおきくなる。登山客に利用されないと困るんや。 目を瞑ってると思って下さい。」
「そんな言い訳してもやな....」
「先日、パトカーの前を走る車が、ウインカーも出さんと右折して、あわや事故を起こしかけたのを見たで。それから、
『商談があるんで急いでいる』
という会社員を任意取り調べや言うて、無理やり警察署に引きずり込むんも見たし、禁煙の場所でタバコを吸ってるのも見たで。」
「そんなん誰がやったかわかれへんやないか。」
「警察がそれを言うか?今回の事件も誰がやったかわかれへんやないか。」
「おまえのことを言っとるんや。」
「いいや、警察のありかたについて一般的な意見を言うとるんや。」
「そんな調べようもないことを。」
「右折や任意取り調べやタバコのことかいな。ちゃんと動画に撮っとるから証拠はあるで。」
と話にならない。
ほぼ、ケーブルを利用したに間違いない。 と平山警部は推理するのだが、ここから先は?? である。
発見者は摩耶ケーブルの係員で、夜明け前の試運転車に乗って摩耶観光ホテル前に行った時に、見つけたと言うことである。 薄い霧が出ていたがケーブルカーの運行に支障はなかった。 誰かが開けたのか、摩耶観光ホテルのドアが開いていた。 空も明るくなて来た時、係員はギョッとした。 そのガラスに黒いメイド服を着た女のようなものが、写っていたからである。それと同時に『村落』の死体を発見した。
「酒場」が言っていた2年前の六甲山の事故は、一番近くの救急病院に運び込まれた。両親は死亡し、生き残ったのは、西島昴と妹の栞であった。すぐに九条総合病院に転院して行った。
「摩耶観光ホテルは廃墟やったんやな。なんで、ドアが開いとったんや?」
「姫様、それが不思議ちゃんです。」
「幽霊が開けたんちゃうん?それともピーちゃんかな?」
「幽霊なんかいませんよ。」
「幽霊はおるやんか。知っとるくせに。」
「お菊のことですか。今頃極楽で天国みたいな生活しとったらいいですね。」
「摩耶観光ホテルのんは、多分、何日か前に死体を運び込み、2階に置いとった。夜中に死体を落した時に、閉め忘れたんやろ。恐かったんかな?」
「しかしなんですぐに死体を落としてしまわなかったんでしょうね。」
「ピーちゃん、なんでやと思う。」
「日にちに関係してるんですかね。友引だったとか。」
「ふうん。友引ね。ごく常識的に考えたら順番やろ。誰かへのメッセージかなんかかな?」
「黒いメイドはどうなるんです。」
「あれは簡単、偶然できた影や。係員は夜明け前に摩耶観光ホテルまでやってきたんやろ。次に起こるこは夜明けや。夜明けの光がドアを照らしただけなら何も起こらんかった。ところがこの日は薄い霧が出ていた。ドアのガラスはいつややったら透明やのにこの日は霧のため、すりガラスみたいになっとったんやろな。そのため
輪郭がぼやけて見えた。その時発見した死体と関連付けてしまったものやと思うけど。」
「それにしても、秋がおらんと、今一つ、気がのらへんな。」
摩耶観光ホテル google earth
5.メリーさんの館
霧の深い夜のことである。ある男が道に迷って別荘群に入ってしまった。季節外れだったので、どこの別荘も明かりがついていない、進んでいくと1軒だけ明かりのついている家がある。
彼はその明りのある家の方へ歩いた。かなり多くの人がいる声がする。運が良ければ泊めてくれるかも知れない。しかしノックをしたが返事がなく、どうしようかと考えた結果、ノブをそーっと回してみるとカギはかかっていなかった。部屋は広く、壁には羊の頭の剥製がかざられていた。不思議なことに部屋には誰もいなかった。
「ごめん下さい。」
と言っても返事はない。階段の上から人の声がする。そうか、2階からの声だったのか。階段を2~3段登ったところで、突然背後から人の気配どころではなく話し声が聞こえてきた。振り向くと30人ほどの外国人の子が、鯖が死んだような目で彼を見ていた。男は恐ろしさのあまり階段から転落し失神した。
男は翌朝に天狗岩の近くで目覚めた。男の服には無数の子供の手の跡がついていた。
羊の頭の剥製があることから「メリーさんの館」と言われるようになった。「メリーさんの羊」というわけである。
都市伝説は色々の話が存在する。私はこのように聞いているが、もし知っている話と違うなら、笑って許して下さい。
5-1.メリーさんの館と天狗岩
摩耶観光ホテルの事件の翌日である。天狗岩に向かうハイキング道で死体が発見された。死体を発見した人や、それを見学?しに来た人は、
「メリーさんの呪いやで。」
と言っていた。無神経である。いったい彼がメリーさんに何をしたというのだ。いや、何かしていても不思議はないか。六甲山牧場で羊さんに悪さでもしたのかも....
しかし、天狗岩で大量の血痕が見つかったあたりから、これは呪いじゃなくて殺人事件じゃないのか?との憶測が蔓延することとなった。しかしそれでもメリーさんの呪い説を支持するのが、警察内部にもいたのは言うまでもない。最初から殺人にしか見えないような気がするのだが?本当に警察か?
兵庫県警が死体を検分したところ、下半身には傷が少なくあっても浅い傷であり、上半身特に頭部には致命傷となる、殴られたような傷がいくつもあった。これを見て兵庫県警は頭を石で殴られたものと思った。どこで殴られたなると天狗岩が疑われるが、大量の血痕がついていれば、だれでもここで犯罪が行われたと思うだろう。
死んだのは『韮草 格馬』19歳。不良の大将で、竹光、東山、村落の3人を子分にして悪行を重ねていた。自宅は西宮なのだが、神戸の不良学校と言われる高校にいったのある。そこで3人の子分を得たと、まあそういうことなのだ。順番からして当然次は自分が狙われるのではないかと思うはずだが、生来のバカであったためか、そんなことは一切考えなかったらしい。
韮草は柔道3段の父親が、息子の精神を鍛えるために柔道をさせていたが、鍛えられずに、中学2年の時にこっそりやめてしまった。そして体ばかりが大きくなっても頭脳は子供のまま、気が付いた時には不良の頭となっていたのである。父親は韮草議員であるが公務が忙しく、毎月の月謝は格馬の小遣いになり、だんだんと多くなっていったが、それほど気にしてなかった。
これで、ニラ・ムラ・トン・タケの全員が死んだことになる。
秋がやってきた。ちょっと気合いが入ると思ったが、ゆるゆるだった。
5-3.メリーさんの手紙
韮草格馬のポケットに、手紙が入っていた。立夏が写真を撮った。
僕は『西島昂』、妹は『西島栞』。
お前らは飲酒、無免許、速度違反、轢き逃げで僕たちの両親を殺した。
救急車を呼んどったら助かったかも知れへんのに、それさえ行わなかった。
あの時、道路から4人の男がこちらを見ていた。
話しの内容から、彼らはニラ、ムラ、トン、タケと呼ばれているのを知った。
「高校生が轢き逃げはまずいで、死んだらどないすんのんや。」
「そんなん知らん。どうでもええ。行くぞ。また、親父にもみ消してもろたらええ。」
僕は救急車を呼ぼうとして119番に電話して助けを求めた。
許さへん、ニラ・ムラ・トン・タケ。
ニラ、お前で最後や。 これで終わりや。
「これは真犯人の書いた偽物やな。」
立夏が言う。
「なんでそうなるんや、どう見ても『西島兄妹』の犯行やろ。動機はハッキリしとるし、事件は石かバットで頭を殴った死体を3つ作った。 1つ目はビーナスブリッジの下に、死後硬直しとる2つ目は布引の滝に、死後硬直が始まる前に3つ目の死体は摩耶観光ホテルに持っていかなければならなかった。 死後硬直するとリュックに入らない。 メリーさんの館事件は、天狗岩に頭をぶつけて殺した。」
平山警部が言った。
「まあ犯人以外はだいたいその通りやな。手紙の間違いは、ニラが飲酒・無免許やったことは西島昴は知らんと思う。これを知っとるのんはニラの仲間3人とニラの家族、問題を起すといつも始末してくれる父親・韮草議員しかいない。このまま犯罪の始末をしていることが、世間に知られてまうと、議員生命も終わり、韮草グループも解体してしまう。これは韮草の人生が全否定されたことになるのだ。
それに西島昴は119番に電話していない。」
と立夏が言った。
「何でそんなことがわかるんや。」
「西島昴に聞いたからや。西島昴は落ちたショックで携帯がどこかへいってしまった。西島栞がした電話では場所がわからず、救急車が動けなかった。捜索隊も出たがみつからなかった。私がその2時間後に彼らを見つけて電話したんや。次にニラという高校生の2回の事故を調べてみた。そんな事故は記録になかった。警察庁の公安が15人がかりで調べとることに気づいた犯人は、犯罪の記録を隠して、不良グループを始末して、西島兄妹を犯人とすることを考えた。」
と立夏が言った。
「ちょっと待て、お前、公安に指示出せるんか。」
「そんなもん出せるか。だけど、警察庁公安の警視正になら出せる。」
「なんで公安が調べとることがわかるんやろ。」
「警察庁に裏切り者がおったんやろな。不良グループの記録を隠したのもそいつやろ。いずれ退職してもらう。西島兄妹に渡した名刺型カードは便利でな。3万円までやったら使っても上谷が3万円にしてくれる。そのための口座もある。1000万円ほど入っとる。その他、九条の買い物は2割引。ええやろ、こんなん肌身離さず持っとくやろ。秋も上谷も黒いのを持っとう。金額の上限はないけど、GPSがついとる。秋も上谷もそんなん承知や。だから、西島兄妹は2年間の間、一度も現場に行ってないと言うよりトラウマがあるんか、ハイキングにも行ってないことが証明できるんや。西島兄妹は犯人ではあり得ない。」
「すると、まさか、犯人は?」
「殺人の処理まで頼まれた、自由会社党の韮草議員、韮草グループ会長やな。」
「ええか、この事件はまだ終わっていないねん。」
「なんでそんなんわかるのですか?」
と平山警部が訊いた。
「ビーナスブリッジから六甲山頂を見たことある?」
「ありませんが。」
「普通はない。間の山が邪魔になるやんか。ビーナスブリッジと六甲最高峰の間に何があるか考えたことある?目の前の事件ばかりを、一生懸命追いかけとったんちゃう?出動の距離が日ごとに長くなっていくのさえ気が付かんかったんちゃう?」
「ほんまや、一直線に並んどう。次は六甲最高峰や。しかし誰が死ぬんですか。」
「多分西島兄妹や。さっき電話がかかって来たから。警察に言うたらあかんらしいから気を付けて。しかしバカやね。なんの担保もなしに警察に言うないうても、言うに決まっとるやんか。」
「何でです。警察に言うたら殺されるんちゃいますのん。」
「言わんでも殺される。生き延びる可能性の高い方を選ぶと、警察にいうんやろな。」
天狗岩付近の別荘群 google earth
現場が直線に並ぶ
六甲山地事件現場の図 google maps
6.五ヶ池
五ヶ池付近は兵庫県でもトップクラスの心霊地帯である。数々の怪奇現象があり、この周辺で死んだ人の数はよく判らないという。
・霊に池へ引きずりこきまれるといった噂があり、現在は立入禁止である。フェンスと監視カメラがあり、フェンスを乗越えるとパトカーがやってくると言われている。
・時々、池に人形やおもちゃを供えている。
・池に近づくと赤ちゃんの泣き声が聞こえる。
・五カ池では昔上ヶ原小学校の生徒が1名溺死した。
・仁川ピクニックセンター(廃止)でテントを張ると、「私の赤ちゃんを知りませんか」という女の声がする。
・通称「お化けトイレ」で子供がメッタ差しに刺殺されて死亡した。
・強姦殺人事件が起こった。
・障がい者施設で、障がい者2名がマンホールに落ちて死亡した。(甲山事件)
・甲山キャンプ場のトイレで硫化水素自殺で2名亡くなった。トイレの扉に「硫化水素発生中。絶対に開けないで」と書かれた紙が張られていたとか。
・「ワタシをここに捨てないで」と書いたトイレがある。
・甲山キャンプ場のトイレの個室に入ったら急に体が重くなり頭痛がして吐き気がした。
・仁川の地辷りによって34名の死者を出した。
・他に、牛女とか夫婦岩とか涼宮ハルヒの伝説もあるが、話が長くなるので、「やんぴ」にしておく。
※(参考)甲山事件は、当初、職員の犯行だと言われていたが、後に事故であるとわかった冤罪事件である。
都市伝説は色々の話が存在する。私はこのように聞いているが、たぶんもっとたくさん知ってる人もおられると思う。もし知っている話と違うなら、笑って許して下さい。
6-1.甲山
甲山森林公園付近で、自動車が谷に転落しているのが発見された。運転手は自力で脱出した様であった。そのあたりはあまり急でないカーブが連続するが、なぜか事故が多い。五ヶ池の呪いだとか、甲山のUFOに襲われたとか言われているが、どちらかわからない。呪いもUFOも見た人がいないからだ。
その道筋にはお地蔵さんがたくさん並んでいるので、お地蔵さんの呪いだという人もいるが、お地蔵さんって元々は、水子とかを慰める存在ではなかったかと思う。呪わないような気がするが....
甲山はお椀を伏せたような恰好をした山である。子供でも簡単に登れ、山頂は広い広場になっている。メリーさんの館事件の夜中である。
「今夜、12時に六甲山山頂に来い。事件の真相を教えてやる。警察には言ニうな。」
その後すぐに、
「甲山だぞ六甲山と間違えるなよ。」
「よくぞここへ来たな!」
「お前が呼んだんやろが。」
「それにしてもよく来たな。」
「今までの殺人事件はお前が犯人やな?韮草議員」
「違うな。お前らが親を殺された恨みで、殺したんや。」
「なんで、2年も経って、今さら....」
銃声が2発響いた。昴と栞が倒れるのが見えた。そして手袋と銃をそこらに放るとハイキング道を下りかけた。立夏と秋はそれを見ていた。
立夏が叫んだ。
「ピーちゃん。射て。」
「はい!」
昴はここまで聞いて、九条さんに感謝しながら、意識が遠くなっていった。
ピーちゃんは弓も射撃も名手だったが、遠すぎる上に夜なので、心臓からわずか20cm離れた右肩を撃ち抜いた。それでもかなりの腕前である。
「鬼瓦!猫又!捕らえろ。」
ピーちゃんが言うと、草むらからサッと出て来て縛り上げていた。
「誰だ、こんな縛り方をした奴は。」
「苺郎警部、私です。」
「なんだと聞いておるんだ。」
「これは、亀甲縛りと言いまして、我々の仲間では基本の縛り方ですが。」
「ここには女性もいるんだぞ。怪しげな真似をするんじゃない。」
「きゃ~、変態よ。真性の変態だわ。」
「女言うても鉄砲ぶっ放して、『快感!』と言って笑っとるような奴らじゃないですか。」
「やっぱりPちゃんがいいわ。弓も拳銃も凄腕だし。痺れちゃう。」
「私なんか、『P命』シールを持ってるのよ。これが弓、これが射撃バージョンよ。」
「そのシールどこで売ってるの?」
「時々中庭に『ストロベリーショップ』という店が出るのよ。なんでも苺郎警部が趣味でやってるらしいの。儲けないことが条件らしいから、1枚5円とか10円とかの値段なの」
「でも、あなた、何か匂うわよ。」
「でへっ。ちょっとちびっちゃったの。」
各自好きなことを言っている。
ピーちゃんは、
「ボク、初めて、人を撃ちました。ものすごくイヤな気持ちです。」
と言っているのを、立夏と秋以外知らない。ピーちゃんの手が震えている。
昴と栞は、胸を銃で撃たれて、倒れていた。
「救急ヘリを甲山山頂。九条総合病院へ。急げ。」
「九条総合病院。今からヘリで救急患者が3名が行く。心停止の恐れと脳死の可能性あり。必ず治せ。ひとりは右肩銃創。これは警察に引き渡すので、それなりに。縄は解かないように。」
昴と栞は神戸の九条総合病院に運ばれた。2人とも銃弾は心臓を貫通していた。
昴は脳死状態で、栞も心停止しており一刻を争う状況であった。地元の病院では手に負えない。普通なら線香をあげても不思議でないぐらいだ。九条総合病院の技術は世界でもトップクラスであり、各国からも認められている。難病の患者を何人も救い、その治療法を世界に公表している。その治療法によって助かった人は多い。昴と栞はこの病院に連れてこられた。
「男は脳死、女は心停止、この患者を蘇生できるのは、世界中で我々しかいない。姫様のお言葉は『必ず治せ』である。」
18時間もの手術によって彼らの心臓や脳機能は動き出した。
甲山
google earth
五ヶ池
google maps
6-2.極楽浄土へ還るバス
五ヶ池手前のバス停には極楽行の阪急バスが出るという。運転手は人間なのかとか、なぜ阪急バスなのかは知らない。
秋はたくさんの幽霊がバスを待っているのを見た。
「ほんまや、たくさん集まっとう。」
その中に知った顔がいるのに気付いた。立夏は秋と手を繋いで目を凝らすとぼんやりと見える。
「お菊、お菊やないか。」
お菊は秋の方を振り向くと、
「秋さん、お久しぶりです。あっ、立夏さんもお久しぶりです。」
「お菊さん、この人たち誰や。」
お菊の隣にいたおばちゃんが訊ねた。
「私の友達やった人たちや。私を怖がらずに、仕事を与えてくれて、生まれた村にも連れて行ってくれた。そして、私を殺した犯人も教えてくれた。」
「お菊さん、ええ友達やってんな。」
「おばちゃん、お菊、それは違う。」
と立夏が言った。続けて、
「私たちは、友達やったんと違う。今でも友達や。そやから、お菊のことは一生忘れることはない。お菊も忘れないと信じとるで。」
お菊は、涙を流しながら、
「ありがとう。忘れたことなんかない。これからも忘れない。」
いつの間にか霧がかかった。おばちゃんが言った。
「お菊さん、最後にええ人と出会えたんやな。幽霊にあないなこと言うてくれる人はおらんで。」
「おばちゃん、わかっとうで。でも、いつまでも、みんなと一緒に居たかった。」
霧の中からバスがやってきた。お菊は、
「お盆に、また、会いに来ます。」
お菊はそう言ってバスに乗り込んだ。
「あれは、お盆にはここに来いという意味やろな。」
と立夏が言うと、
「そうか、今日はお盆か。」
と秋が言う。
「1年は長いか、300年も死んどるお菊にとってはそうでもないんかな。」
「待つ時間は長く感じるんや。」
「何処かに盆踊りでも行くか?」
「やってるとこがあるかなあ。」
男が秋と立夏の方を向いて、
「九条さん、いろいろとありがとう御座いました。」
男はバスに乗ろうとしたが、目の前でドアが閉まった。
「君は乗れへん。生きとる人は乗れへん。君は死なへんのや。九条総合病院が、全力で治療してるから、必ず生き返る。」
バスは霧の中に消えた。
「そうか、まだ生きとるんか。助かったら罪を償えと言うことなんか?」
「それは違うで。私は真実を知っとるんや。あの事故を見つけた時から、唯一真相を知ることができる人間やったからなぁ。だから、昴と栞が犯人ではないことを知っとるねん。」
「九条さんのおかげで随分助けられました。九条さんがおらんかったら、殺人を犯しとったかも知れません。」
「そうか。それやったら嬉しいわ。 私の会社に採用するさかいに、裁判が終わったら兄妹で来てな。 テストする。 その前に、優秀な弁護団つけるさかいに、無罪を勝ち取れ。 正義を実現させろ。どうせ無罪やねんから。」
「九条さん、ありがとう。あなたを裏切ることなんかでけへん。 ああ、体が消えていく感じや。 元の世界に戻るんやな。」
6-3.九条総合病院
「おお、女が気が付いたぞ。」
「男も気が付きそうだ。」
「やったぞ、脳死の患者を救える医療チームは、世界でも我々だけだ。」
「だが慢心してはいけない。まずは検査だ。 脳と心臓のダメージを測ろう。」
「頑張ろう。徹夜がなんだ! 我々は世界一の医療ができるのだ。」
昴はゆっくりと目を開けた。 九条さんと会って、犯人ではないことを知っとると言われた。信じるでなく知っとると言ってくれたのだ。それで生き返って。あれは夢?臨死体験?いや確かに現実だった。まるで別の世界にいたような感覚や。
「しかし、随分豪華な病室やな。僕の部屋より豪華や。」
「ここは、九条家の特別室です。九条関係以外の人は入れません。」
「僕は九条関係とちゃいますよ。」
「いいえ、あなたは九条関係の人です。」
「どうしてですか?」
「九条立夏様、九条の姫様がそう仰られたからです。九条立夏様は九条家1300年の歴史の中でも1・2を争うほどの優秀なお方です。」
「そんなにすごい人がなぜ僕と妹を助けたんですか。」
「立夏様が来られますので、直接本人にお伺い下さい。立夏様は私たちとは違う見方をします。 感覚的というのでしょうか。 これを理解できるのは、秋様ぐらいです。」
立夏と医者が部屋に入って来た。
「どう、具合は。」
「そこそこです。」「あなたの場合は、心臓は動いていましたが、脳波が停止していました。砕けて言えば、脳死状態です。 この状態から蘇生した人はいません。 ほぼ確実に墓場行きでした。
しかし我々には研究中の脳死蘇生手術があります。まだまだ不十分ですが、脳死15分以内で心臓が動いているという条件があれば、できる可能性があったのです。何しろ初めて人間に施した手術でしたので、ちょっと恐かったです。脳に強制的に血液を通すため、大量の輸血が必要になります。心臓を銃弾が貫通していましたが、何とかなるという意見が大半でした。
この病院では心臓が停止しても15分以内なら蘇生可能です。あなたの場合は胸と頭に傷が残りますが、仕方がないと割り切って下さい。あなたは脳死状態から蘇生手術が成功した、世界最初の事例として医学界に残ります。」
「ゾンビみたいですが、嬉しいです。妹はどうですか?」
「心停止していましたが甲山から8分で病院まで来ましたので、間に合いました。胸に傷が残りますが勘弁して下さい。妹さんは、治るまで3週間と言ったところでしょうか。 あなたは、脳の経過観察の検査があるので4~5週間です。最初は週に1回検査にきて下さい。」
「九条さん、どうして僕らにこんなに親切にしてくれるのですか?」
「昴さん、2年前の事故の時どうしてあなた方を見つけることができたのかわかりますか?質問に対して質問で返すにはどうかと思いますけど.....」
「偶然ではないのですか?」
「あのあたりは下り道のドライブウェイです。ハイキングではほとんど通らないところです。 私は『ギフテッド』を捜していたのです。」
「六甲山中・高付近でふらふら走る車を見ました。あの様子じゃ事故の可能性が高い。あの車の事故に巻き込まれるのは『ギフテッド』だろうという予感がありました。何分かしてから、場所はわからないけど、タイヤの滑った音に続いて何かに衝突した音が聞こえました。何かあったのなら急カーブだと思いました。だからカーブを中心に道路左右を調べながら下ったんです。あなた方を見つけた時、私の捜してる人かも知れないと思いました。」
「これが感覚的というものか?」
「偶然なのは、ご両親が亡くなってしまったことでしょう。私はあなたが仕返しをしないようにするのが大切だと思いました。だからできる限りのことをしたかったのです。それで名刺を渡しました。あれは、カード機能の他にGPSがついています。だから、あなた方が連続殺人には関係ないと知っているのですよ。」
「九条さんは2年前から連続殺人が起こるとおもってたのですか?」
「まさか。知ったのは先週です。秋の能力に教えてもらいました。秋の能力は
他の人の能力とは全く違います。数字に表せない、霊感と共感。特に秋と私は相互に共感して、互いの精神に影響を及ぼしていると思います。」
6ー5.ギフテッド
1ヶ月後に調布にある自衛隊医科大学に、上白河教授のもとへIQ測定に伺った。
「立夏ちゃん。会社の経営なんかやめて、一緒に研究しようよ。」
「私もそうしたいけど、何万人もの生活が掛かっとるから、そうもいかんのよ。」
昴の対人能力はIQ150、栞の博物学はIQ150の値であった。
「ふたりとも、かなり優秀だね。恐らく潜在化している部分が多いんだろう。」
「他の人はどれぐらいですか?」
「立夏ちゃんは多能力者で、論理・数学190、博物学180、言語150、で6ヶ国語を喋れる。」
「その中に『スワヒリ語』なんて聞きなれない言語もあるけどな。」
「ルイちゃんも多能力者で、論理・数学190、視覚・空間190、言語130。秋ちゃんは変わった多能力者というんかな?身体・運動230、限定的共感160、霊感測定不能。この3人は世界でもトップクラス、特に秋ちゃんの最大運動能力は反射能力を超える。恐らく世界一。」
「上谷君は鳥取の三崎銀行に出向しているが、対人知能160だ。160ってバカにしちゃいけない。前の3人が異常なだけで、一般に言う天才の部類に入る。秋ちゃんだってW大に入っているのだから、優秀な部類に入る。三崎銀行は地銀だが、立夏ちゃんが買い取って業績を伸ばしている。立夏ちゃんの主要取引銀行になっているので当然かも知れない。」
2ヵ月後に初めての裁判が開かれた。 被告は昴と栞となっていたが、被告弁護人は5人おり、しかも九条が総力を挙げていると知れば、検察側も気合が鈍るというものである。 だいたいが、警察庁が捕まえてきているのを、議員というので十分に取り調べていないのも不思議であった。 要するに議員と財閥のどちらを取るか迷った末、議員の方を取った訳である。
検察側の主張
被告2人でなければ、犯罪は行えなかった。
弁護側の主張
ひとりでも柔道3段なら可能である。それに被告2人を銃で撃つところを見た証人がいる。
検察側の証人:韮草
撃たれたのは自分であり、彼らは殺害計画を完遂して自殺を企てたのではないか。九条も犯行に加担したのではないか。
弁護側の証人:九条
私は自分の見たことを言ってるだけだが。九条が加担したとは何を根拠に言っているのか。
検察側の証人:韮草
九条の者が何人も張り込んでいたではないか。
弁護側の証人:九条
九条関係者は私と西園寺秋だけだ。他の者は警察庁に所属する。
検察側の証人:韮草
寄ってたかって私を縛り上げやがった。覚えとれよ。九条を潰したる。
弁護側の証人:九条
目撃者は警察官が10人以上いることをお忘れなく。それから、潰れるのんは、どっちかな?
見学者は企業関係の人が多かった。
「姫様が怒っとる。韮草グループもこれまでやな。」
「九条をなめるな!成金の分際で。姫様の証言を笑いものにしやがった。」
「全社に通知を出せ。韮草グループとの取引を一切禁じる。自由会社党も即刻韮草を除名せんかったら同様や。自由会社党に票が入ると思うなよ。韮草グループの原料を買い占めろ。守れなかった者は処罰する。」
翌日、韮草グループが朝礼をする頃には、韮草議員は政党から除名されていた。 韮草もそれなりのグループを作っていたが、材料等が入らず、たちまちに経営が苦しくなった。
九条ホールディングスの持ってる韮草グループの株は売りに出された。韮草グループの株価は下がり続け、第2回公判までに紙切れ同然となった。
「よし、韮草の株を買い戻せ。」
立夏は紙切れ同然の韮草株を買い占め、九条が取引を開始したため、韮草グループは復活し、経営権は立夏が持つことになった。
6-6.第二回公判
弁護側の証人:10人の警察官
犯罪が起こる可能性があるとの情報を入手し、甲山山頂を見張っていた。
弁護側の証人:10人の警察官
韮草が2人を至近距離から撃った。
ピーちゃんが韮草を撃ったのは、
威嚇が偶然当たったのだろう。暗い中で遠い所を逃げていく相手を撃てる人なんていない。実際はピーちゃんならなんとか撃てるのだが、あれで当てられるなんて信じられないので、みんな黙っている。
政党からは除名され、グループは乗っ取られ、今になって韮草は喧嘩を売った相手を間違えたことを知った。しかし、もはや遅きに失する。
6-7.韮草
もはや韮草を守るものは何もなかった。韮草はわずか1週間で全てをなくしてしまった。
「息子は私の教育が悪かったのだろう、不良の大将になってしまった。盗んだ車を飲酒運転で乗り回し、無免許、速度違反、挙句に人身事故まで起こしてしまった。 最初の事故は示談という形で決着がついたので、2番目の事故も示談でどうにかなると思ったのだろう。2番目の事故は、そこにいる西島さんのご両親の死亡事故だった。せめて、救急車でも呼んでおけばよかったものを、轢き逃げにしてしまっては示談もできない。未必の故意で殺人とされても仕方がないものだった。そんなことも知らない奴らはまたも私に事故の後始末をするように迫って来た。示談で済ませと。私はそれが無理なことぐらいは理解していたが、彼らはわかっていなかった。偶然、警察は彼らに辿り着かなかった。彼らは神戸市内で、窃盗、暴力事件、婦女暴行事件などを行っていた。私が何とかするだろうと思っていたのだろう。」
「なぜあなたは彼らを殺したのですか。」
「盗んだ車で3番目の事故を起こした。被害者は生きていたが、石で殴り殺して海に捨てた。過失という言い訳もできない。立派な殺人だ。これは、もうわたしの手におえない。社会のため、私のためにも仕方なかったのだ。」
「なぜ、西島兄妹を犯人にしようとしたのか?」
「かといって自分が犯人になるのはいやだ。復讐を終えて、心中してもらうつもりだった。だけど相手が悪かった。九条の姫様の名は知っていたが、まさかあんな人だったとは。翌日には政治家生命を絶たれ、7日間でグループ8社を乗っ取られてしまった。なんで倒産させなかったのか、わからない。」
「潰してしまうと社員が生活に困るやろ。そんなこと考えたこともないのんか。」
韮草は有罪が確定した。
「ビーナスブリッジや布引の滝の電話、摩耶観光ホテルの影などは、警察に勤めているあなたの愛人がやったことですね。」
「そんなのは俺は知らない。」の返答に、
「隠してもダメです。もう警視正の調査で犯人は捕まり、懲戒解雇になりました。殺人幇助の裁判ではあなたも呼ばれるでしょうね。」
「それにしては、間違いだらけの通報やったけどな。」
「それは、現場から電話をしてないからや。適当な事を言って、当たっても外れても謎が増えるだけやからな。実際に白い服に迷わされたやんか。」
「さて、君たちはIQ150を超えているので九条関係者である。2人とも九条ホールディングス所属として、昴は九条物産に出向となり、栞は三崎銀行に出向となる。現状の業務内容は変更となる。昴が九条物産本社の総務部長、栞が三崎銀行東京支店の秘書課係長に異動する。給与は成果給で、昴が200万円、栞が150万円とする。九条ホールディングスでは平均的な給与や。昴は経営、栞は秘書の能力を覚めさせること。東京に越してもらわなあかんけど、社宅があるから。高層マンションやから。まさか高い所が恐いなんてことないよな。そんなんが一人おるからな。優秀やねんけどかわいそうやで。」
「私らは大丈夫ですよ。」
「九条さんが言うなら、年収200万円で働きます。」
「何言うとんのん。そんなんやったら社員に示しがつかへん。月給200万円に決まっとるやないか。」
「それからこの異動は、将来、元韮草グループをまかせてええかどうかのテストやと思ってな。まあ大丈夫やと思うけど。」
「なんでそんなに優遇してくれるんですか?」
「それはな、私しか知らんことやねん。」
それは私しか知らんこと......
たぶん
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