1.高田馬場
1-1.こたつは優秀な暖房器具である
秋 「とうとう寒くなってきたなぁ。」
立夏「壊れたエアコン、修理しとったらよかった。邪魔くさかったし、こないして、秋の部屋におったら、暖かいし。お茶やお菓子が出て来るし。」
秋 「お菊がおらへんから、お茶やお菓子はもう出て来えへん。」
立夏「お菊!戻って来てくれ!」
秋 「とりあえず、こたつを出しとこか。」
立夏「私、こたつを使たことないねん。」
秋 「気を付けんと寝てしまうで。」
立夏「私に限ってそんなことは、たぶんないかも知れへん。」
秋 「仕事するんやったら、こたつは向かへんで。」
立夏「ぽかぽかして気持ちええわ。寝ても不思議やあらへん。こたつは危険な暖房や....」
秋 「あ~あ。寝てしもた。私も寝よ。」
1-2.高層ビルで墜落者が出る
秋 「あ~あ。よう寝たわ。立夏もそろそろ起きんと、晩寝られへんで。」
立夏「気持ちよかった。テレビでも点けて見よか。」
TV「本日、12時丁度に、高田馬場の高層ビルの建設現場で、九条土建の増山正司さん59歳が25階から転落し、亡くなりました。警視庁は事故の方向で現場を調べています。九条土建の九条三郎社長は『亡くなった増山さんにはご冥福をお祈りいたします。事故については、至急に原因を調査し、適切な処置を行い。二度とこのようなことのないように、努力致します。』との発表がありました。」
立夏「三郎兄ちゃんの会社が?」
1-3.またも上谷優也を召喚する
三郎「立夏。高田馬場のは事故じゃない。殺人事件だ。なんとか手伝って欲しい。発表では黙っていたが、落下防止用のロープとゴンドラをぶらさげているロープが切られていたんだ。」
立夏「わかったで。早期解決のためにもうひとり鳥取から呼ぶわ。九条ホールディングの課長で、三崎銀行の営業課長兼役員、上谷優也、別名『砂漠の毒針』や。」
三郎「変な別名だな。暗殺団の頭領じゃないよな?最近、三崎銀行の業績が上向いているのは、その上谷の力か?」
立夏「上谷は高い役職につけるほど、人を引き付け、論理思考が上昇する能力があるんや。逆に言うたら、今までのように平社員やったら、能力の持ち腐れになるねん。三崎銀行の業績が上向いとるんは、上谷の力もあるんやけど、私の会社が三崎銀行をメインバンクにしたからやな?私の力やな。それも上谷の力かも知れへんけど。」
三郎「その上谷というのはどのぐらいの実力があるのか。」
立夏「鯨事件を解決した男で、能力はホームズ程度や。」
三郎「ホームズって推理小説の探偵では一番人気があるのだろう?」
立夏「たぶん、そうやろね。だけどホームズって一人よがりの推理が多いねん。だから、間違いも多いんや。しかしツボにはまると見事な推理を展開するねん。それをうまくまとめていた『ワトソン君』もかなり優秀や。」
三郎「そのワトソンじゃなくて上谷君はどんな人なんだ。」
立夏「早稲田大学法学部卒、現在25歳、身長180cm、男前、柔和、酒乱、幽霊好き、空手4段と言ったところや。」
三郎「まさか立夏、その男に惚れたのでは....」
立夏「それはないで。能力の高さや人柄の良さは認めるけど。あの幽霊好きな酒乱はあかん。幽霊に恋する男なんか嫌や。もし上谷と結婚したら幽霊屋敷に住みそうや。」
1-4.上谷は『砂漠の毒針』と呼ばれている
立夏「上谷さん、東京へ来てくれへん?交通費は九条銀行から振り込んだから。」
上谷「何があったのでしょうか?」
立夏「私のマンションの近くのビルで転落事故があってん。三郎兄ちゃんは殺人事件やと言うとるから、犯人を挙げなあかん。ここは『砂丘のホームズ』も協力して欲しいねん。」
上谷「どこかで『砂漠の毒針』とか、言うとるんじゃないでしょうね。」
立夏「めっちゃ鋭い!その鋭さで解決まで期待しとうで。」
上谷「言うとるんかい!!!」
甘口「上谷さん、本社からの出張要請ですか?」
上谷「支店長、度々、出て行ってしまってご迷惑をかけます。」
甘口「何を仰る。上谷さんのおかげで、46全支店の内、一番利益が上がっている支店になりました。鳥取が神戸や大阪、横浜、東京本社を追い越して日本一になる日が来るとは、夢にも思ってなかったです。」
上谷「行員の皆さんの努力の賜物ですよ。」
甘口「上谷さんは、お土産も22人全員に1箱ずつ買って来てくれますし。次は何を買ってくれるのか、楽しみで。」
上谷「支店長、よだれが出てますよ。それに東京の早稲田には行きたいところがありますし。」
1-5.秋とメグは子供柔道教室を開いている
三郎「最近、よく一緒に動いとる、深泥桃なんかどうや。」
立夏「女好きやからあかん。先日メグに手を出そうとして落とされよった。」
三郎「メグって誰だ。初めて聞く名前だが?」
立夏「神戸五輪で金メダルを取った下山恵。知っとうやろ。秋の一番新しい弟子。強いで。今女子では全階級通じても秋の次に強い。時間があればこのビルの50階の『西園寺柔道場東京支部』で子供柔道教室をしたり、秋と戦ったりしとるわ。そら、強なるわ。秋には勝てへんらしいけど、負けても楽しいらしいし。」
三郎「子供柔道教室?道理で最近エレベーターで、知らん子連れの女性に挨拶されると思とった。」
立夏「楽しい柔道をモットーにやっとるんやけど、礼儀やマナーも大事やから。秋とメグが金メダルを取ってから、一気に加入者が増えたらしいで。スポーツ保険代負担として、年会費親子合わせて100円、弟妹は50円。月会費無料、東京では会費がかなり安い部類らしい。保険代で100円を超える分は私が九条保険に払とうねん。全然、危険なことも厳しくもしてないのに、子供は勝手に上手くなっていくらしい。こないだは、東京都の子供柔道大会団体戦男女と中学の道場別大会女子で優勝した。男子は人数不足やった。学年別個人戦でも何人か優勝しとう。」
三郎「なんでそんなに強くなるんだ?」
立夏「秋は子供が楽しくやってるからと言うとった。面白い遊びはうまくなるやろとも言うとったで。教えとるんも金メダルじゃなぁ。最近は下山兄や西塔も時々遊びに来るみたいで、『カムバックするんやろか?』と秋が言うとった。あの二人も金メダルやし。秋と戦いたいんとちゃう。特に下山はテレビによく出とうからか、子供に人気があるねん。秋が言うには、40歳近いとは言え2人とも今でもなんとか勝てるんちゃうか、とのことや。」
三郎「秋ちゃんはお前と似たようなところがあるな。」
立夏「私もそない思うんや。それが秋の『共感能力』や。そうそう、秋が言うとった『三葉虫池2が欲しい』らしい。神戸の『三葉虫池』は特別天然記念物になってしもたから。」
三郎「そう言やこないだ、テレビで言うとったなぁ。」
2.供述
2-1.尻取り三兄弟-中山が供述する
立夏「久しぶりやな。会社には慣れてきた?」
上谷「お初にお目にかかります。三崎銀行鳥取支店の上谷と申します。立夏さんの荷物持ちです。」
中山「親方、お久しぶりです。上谷さん中山です。先月から班長になりまして、部下はまだ新人5人ですが、やりがいを感じます。私も新人ですが。」
立夏「おっ。出世が早いやん。無理せず自然体でやってな。ところで、こないだの転落事件についてはどないう思う?」
中山「亡くなった建設課の増山さんは、性格が悪いと言われてまして、文句が多いとか、人の悪口を言うとか、新人いびりをするとか言われてます。特に金に汚いという噂があります。恨みに思ってる人はいるでしょう。それでも殺されるほどではないと思います。そう言えば、半年ほど前に奥さんを亡くされたと聞きました。近所の人の話では、仲が良い夫婦だったと言うことです。娘さんが結婚して近所に住んでいますで、度々様子を見に行っているようです。」
立夏「奥さんの名前とか死因とかはわかる?」
中山「名前は確か麻沙子さん、死因は交通事故と聞きました。」
立夏「交通事故の運転手は知っとう?」
中山「そこまではわかりません。」
上谷「君はどう思う?増山さんは事故?殺人?」
中山「何とも言えないですね。わかりません。」
立夏「ところで、君たち3人は交流があるのん?」
中山「月に2~3回3人で飲みに行きます。部署は違えど、同志ですから。」
2-2.尻取り三兄弟-山川が供述する
立夏「どう、久しぶりやな。会社には慣れてきた?」
上谷「お初にお目にかかります。三崎銀行鳥取支店の上谷と申します。立夏さんの子分をさせてもらってます。銀行の勧誘ではありません。」
山川「親方!お久しぶりです。上谷さん、研究開発部開発室で新規商品や新規工法を研究開発をしている、山川です。考える仕事が半分ですので意外とのびのびしていますよ。頭をクリアにしとかないと、いい考えも浮かびませんから。」
立夏「ところで、こないだの転落事件について、何か知っとうことがある?」
山川「亡くなった増山さんは、時々開発室に来るのですが、優しいおじさんと言ったイメージですね。よく、お菓子を差し入れてくれます。穏やかで誰かに恨みをかうような人ではありません。転落の件は事故と思いますが。」
立夏「ところで、奥さんとお子さんは東京の生活に慣れた?」
山川「最初は不安でした。人が多くて驚いていました。農村地帯から出たことがなかったからです。でも、最近は東京の生活にも慣れ、近所の人との付き合いも増えています。社宅なので共通の話題が多くて助かるようです。お給料が安定して、しかも以前と比べものにならないほど多くなったので、喜んでいます。子供も幼稚園に慣れたようです。もうすぐ2人目の子供が産まれます。これもみんな親方のおかげです。妻も感謝しています。」
立夏「2人目が産まれたら教えてな。」
2-3.尻取り三兄弟-川中が供述する
立夏「調子はどう?経理課には慣れた?」
上谷「お初にお目にかかります。三崎銀行鳥取支店の上谷と申します。立夏さんの用心棒です。わずかながらでも、当行に口座をお願いしたいと思います。」
川中「親方、お久しぶりです。経理課の川中です。経理課にはすっかり慣れましたが、なぜか係長になっているんです。簿記1級を持っているのが私だけだとは言え、恐縮です。部下はいないんですけどね。」
立夏「ところで、こないだの増山さんの転落事件について、何か知っとうことがある?」
川中「経理課なんてホイホイ来るところじゃないですから。」
立夏「私はホイホイ来とうけどな。」
川中「増山さんは今回の事件が起こるまで名前も知らなかったです。事件の起こった時にちょっと調べてみたんですが、増山さんについては、怪しい経費の動きはありませんでした。ただ、建設課松永班は問題が多いですね。物品の個数が合わないとか、単価が契約と違っているとか、いろいろですね。増山さんはそれを知っていた可能性も、否めません。」
上谷「増山さんは、金に汚いと言う噂があるんですが?」
川中「会社の経費についてはきれいなもんです。もっとも、プライベートではどうだかわかりませんが。」
上谷「君はどう思う?」
川中「報道されているように事故だと思います。」
立夏「ところで、今度、結婚するんやて?」
川中「まだまだ、来年の話ですよ。式の日も決まっていませんし。」
立夏「日取りが決まったら教えてな。」
立夏「どう思う?」
上谷「矛盾した供述ですね。ところで、上司や部下の意見も聞いてみたいところですね。」
立夏「私もそう思うんや。それじゃ、応接室でも貸してもらうことにしょっか。」
2-4.上司の松永が供述する
上谷「この間の事故について、九条社長の依頼を受けて、殺人事件も視野に入れて、調べています。不愉快な質問があるかも知れませんが、ご協力お願いします。私は上谷、こちらは立夏と呼んで下さい。」
松永「松永です。43歳です。死んだ増山の上司に当たります。増山は25階の外壁の塗装をしていましたが、塗装が終了したので、11時30分頃から清掃を行うと連絡がありました。」
上谷「連絡はどんな方法で?」
松永「携帯電話またはSMSで連絡してました。いちいち私を捜すのも大変ですから。今回は携帯電話で連格が来ました。」
上谷「松永班は何人いるのですか?」
松永「他の現場もやっているので、合わせて16人ですね。」
立夏「中山班は5人と言ってましたが?」
松永「行う仕事が違うんです。中山班は主に小さい住宅を担当しています。」
上谷「亡くなった増山さんをどう思いますか?」
松永「亡くなった人を悪く言うのは気が引けますが、よく私の言うことに逆らい、私のことを『お前』と呼んだりして、上司を上司と思わない言動もよくありました。悪口も言っていたようです。半年前に奥さんをなくしてからひどくなったように感じます。年下の上司に従うのは嫌なのかも知れませんが....」
立夏「他の部下もそのような態度だったのですか?」
松永「そんなことはありませんでした。中坂と花咲は死んだ増山と仲が良かったですが、私の指示通りに仕事をし、悪口などは受け流していたようです。厚狭は高校を出たばかりで、口うるさいじいさんと見ていたようで、嫌っていました。」
上谷「増山さんが亡くなった時、あなたは何をしていましたか?」
松永「30階の外壁の塗装です。」
立夏「外壁の塗装はどのようなやり方をするのですか?」
松永「今回は高いビルなので、ゴンドラに乗ってエンジンで上下していました。何かの異常があれば緊急停止します。」
立夏「ゴンドラ内で飛び跳ねたりすると、緊急停止しますか?」
松永「程度によりますが、停止することもあるでしょう。」
立夏「もし途中でエンジンが止まるとどうなりますか?」
松永「ゴンドラも止まります。地上には落ちませんよ。ゆっくりですが手動でも動かせるので地面まで降りることができます。」
立夏「転落防止の安全対策はどのようにしていましたか。」
松永「ロープで体とゴンドラとを繋いでいます。ゴンドラの縁は高さ1mの金属の網になっており、後方から出入りできるようになっています。」
上谷「増山さんを殺したい人に心当たりはありますか?」
松永「いないと思います。60歳になれば自らの希望で、守衛をすることになっていると公言していました。あと半年ですし、私にしても気が悪いぐらいで、半年たてば関係がなくなるのだから、殺そうとは思いません。」
2-5.部下の中坂が供述する
上谷「この間の事故について、九条社長の依頼を受けて、殺人事件も視野に入れて、調べています。不愉快な質問があるかも知れませんが、ご協力お願いします。私は上谷、こちらは立夏と呼んで下さい。」
中坂「中坂、32歳です。増山さんの部下になります。10時30分から23階室内の塗装をしていました。」
中坂「中坂、32歳です。増山さんの部下になります。10時30分から23階室内の塗装をしていました。」
立夏「23階までどうやって上がったんですか?」
中坂「エレベーターです。ビルの中央に4基のエレベーターがあります。その右側一番奥のエレベーターを使う許可がとってあるのです。」
上谷「増山さんのことはどう思いますか。」
中坂「いつもにこにこしてて、お菓子やジュースをくれることもありました。話し好きで、ちょっと鬱陶しい時もありましたね。私は好きでしたが。人のいいじいさんと言ったところですね。」
立夏「増山さんは半年前に奥さんを亡くしたそうですが、何か変化がありましたか。」
中坂「2~3ヶ月、うつ病でしょうね、かなり落ち込んでいましたが、それ以降はそんなことはありません。」
2-6.部下の花咲が供述する
上谷「この間の事故について、九条社長の依頼を受けて、殺人事件も視野に入れて、調べています。不愉快な質問があるかも知れませんが、ご協力お願いします。私は上谷、こちらは立夏と呼んで下さい。」
花咲「私は花咲28歳です。9時から24階室内の塗装をしていました。」
上谷「増山さんのことはどう思いますか。」
花咲「よく、飲みに連れて行ってくれます。話し好きで、酒を飲むほどに口が回ります。」
立夏「24階の作業と言うことですが、25階で作業していた増山さんはかごに乗っていましたか?」
花咲「『今夜飲みに行くか?』と声をかけられ、振り向いたら乗っていました。」
立夏「増山さんについては、個人的にはどうでしたか。」
花咲「課長や厚狭は悪く言いますが、そうとは思えないですね。」
立夏「増山さんは半年前に奥さんを亡くしたそうですが、何か変化がありましたか。」
花咲「酒を飲んでる時はいつもと変わらなかったですね。」
2-7.部下の厚狭が供述する
上谷「この間の事故について、九条社長の依頼を受けて、殺人事件も視野に入れて、調べています。不愉快な質問があるかも知れませんが、ご協力お願いします。私は上谷、こちらは立夏と呼んで下さい。」
厚狭「はい。」
上谷「お名前と年齢は」
厚狭「厚狭、18歳。」
上谷「増山さんが亡くなった時あなたは、どこで何をしていましたか?」
厚狭「増山の指示で地上で道具の整理をしていた。」
上谷「増山さんのことはどう思いますか。」
厚狭「大事な仕事をやらせてくれない。何かにつけて文句を言い、腹が立つ。新人いびりというもんだろうな。かと言って殺そうなんて思わない。我慢できなくなったら辞めればいいから。」
立夏「増山さんは半年前に奥さんを亡くしたそうですが、何か変化がありましたか。」
厚狭「入社してすぐのことだから知らない。」
3.お菊
3-1.早稲田あたりを上谷はうろつく
立夏「どう思う?」
上谷「ん~、なんとも言い難いですね。ここまでなら、本当に殺人事件かも怪しいものですね。ちょっとそこらをぶらぶらしながら考えてみます。」
立夏「はぁ、ぶらぶらしながら?」
上谷は大隈講堂の方に早稲田通りの下り坂をぶらぶらと歩いていた。枯れ葉が冷たい風に吹かれて飛んで行く。立夏は上谷とは逆方向から歩いて来た秋に出会った。
秋 「立夏、この寒い中、何しとんのん。九条物産に用があるのん。」
立夏「秋は何しとん?授業?」
秋 「物理学の授業や。立夏は物理学、免除らしいけど。まあ理学博士やし免除やろなぁ。」
立夏「そう言えば早稲田には九条物産があるなあ。今は『砂丘のホームズ』上谷さんの後をつけとんねん。」
秋 「上谷は『砂漠の毒針』ちゃうん?」
立夏「それは言うたらあかんらしい。」
秋 「確か自分が言うとったんちゃうのん。毛利小五郎が毒針でどうとか?」
立夏「酔うとって、記憶がない時に言うたらしい。」
2人とも小柄なので尾行に向いていた。
3-2.お菊の墓はサマーマンションの横にある
秋 「ここに来たらあそこやな。準備しとかなあかん。」
立夏「高齢者介護の準備か?それとも老齢年金の請求の準備か?」
秋 「アホ言わんと。花ぐらい買っとかんと、化けて出るで。」
立夏「それがホンマやったら、花なんか絶対買わへんけどな。化けて出る方がええからな。上谷さんにしてみりゃ、化けて出てくれりゃ大喜びや。」
上谷は花を買ってサマーマンションの横にある細道に入る。そこにはお菊の墓がある。たくさんの花で飾られている。上谷は驚いた。
上谷「前に来た時(鯨事件)はこんなに花で飾られてなかったのに。」
秋と立夏が上谷の左右に立った。
秋 「サマーマンションでは、お菊は恋愛の神様と言われとるんや。」
立夏「誰が言い出したことか知らんけど。花屋の売上が倍になったらしいで。」
上谷「噂を広めたのはあなた方でしょう。ありがとうございます。お菊も喜んでいるでしょう。」
上谷は結構涙もろい。
4.増山の性格についての考察
4-1.お菊が上谷に教えたことがある
早稲田通りにある喫茶店に3人は入った。
立夏「さて、お菊は何を教えてくれたんや?」
上谷「マンションの横にお墓があれば、気味悪いと感じますよね。しかし、それが秋さんと立夏さんが噂を広めたおかげで、恋愛の神様となった。恋愛の神様となれば花を添えて拝み奉る。つまり、物の見方や立場、考え方の違い、状況などでいろいろな評価に分かれます。じゃあ、お菊のお墓は『気味悪い』のか『ありがたい』のかどちらかということです。俺は花で飾られたお菊の墓を見た時そう感じました。もっとも『ありがたい』でなく『大事にされている』でしたが。」
秋 「それはどういうことか、私、わからへん。」
上谷「つまり、性格が悪く新人いびりをするが柔和、上司に逆らい部下に優しく、口うるさくて話し好き、金に汚くて気前がいい、妻が死んだら数か月落ち込むが落ち込まないように見せる、というのが増山の性格だと思います。」
秋 「言うとることが、さっぱりわからへんけど。」
4-2.秋の場合を例にとってみる
上谷「例えば、神戸五輪の決勝で、相手、『~あれ?名前を忘れたな。まあいいか~』、は秋さんのことを『恐ろしい人』と思ったでしょう。観客の中にも秋さんが相手を殺すのではないかと、思った人はいたでしょう。しかし私たちは秋さんが『優しい人』だということを知っています。では、秋さんは『恐ろしい人』なのか『優しい人』なのか?しかし、秋さんはどちらも正しい、『普段は優しいが怒ると恐ろしい人』と言えます。人と状況によって評価が変わっているでしょう。一見矛盾するように見えるものでも、どちらも正しいと言うことが有り得るのです。」
秋 「確かにあの試合を見たら、そう見えたかも知れへん。」
立夏「秋の殺気で、スカイ警視正がお漏らししたぐらいや。秋をよく知っとるスカイでもあのザマやから、相当恐い人になっとったんや。」
上谷「全員が増山を殺すほどのことはないと言います。しかし状況が少し変わるだけで、強い殺意を持つかも知れないということです。つまり動機は誰にでもあるのです。」
立夏「私はそこまで深く考えへんかった。」
上谷「でも、問題があるのです。」
立夏「それは?」
上谷「事件はひとつも解決に向かってないんですよね。」
5.ロープの切断についての考察
5-1.宇宙(スカイ)警視正が登場する
翌朝、スカイは近くのファミレスに呼び出された。
立夏「私や。今すぐ桜田門のファミレス『ギャオス』に来てな。」
一番奥に座らされると、正面に立夏がスカイの横には秋が、立夏の横には上谷が座った。
宇宙「私、朝ご飯まだなんです。それにしても、この配置恐いんですけど。」
立夏「何ボケとんのん。私らは仲のええ親友やないか。」
宇宙「親友でなくて、いとこです。」
立夏「言い直すわ。私らは仲のええいとこやないか。」
宇宙「だって、逃げられないじゃないですか。となりに柔道金メダル、確か公式戦では無敗でしたよね。」
秋 「イノシシ相手にも無敗やで。私に勝てるのは愛する人だけなの。」
宇宙「斜め向こうには、空手の中国四国大会の準優勝が....」
上谷「決勝の延長で判定負けだったんです。優勝するつもりだったが、愛媛県に強いのがいたんです。この選手は全国優勝してます。」
宇宙「え~。全国級ですか。京都のホテルでは『地方大会で負けたのにえらい強いな』と思ったわ。記念出場かと思ってました。」
上谷「シバいたろか!決勝まで行っとる4段が記念出場なんかするか!優勝を狙いに行くに決まっとるやろ。鳥取県大会で俺に負けた選手がかわいそうじゃ。」
宇宙「誠に申し訳ございません。シバかれたら首がどこかへ飛んで行ってしまいます。」
立夏「知らんかったんか。私の関係者は全部把握しとるんと違うんか?」
宇宙「トコちゃんならともかくも、私は先週から、認知症気味で。」
立夏「認知症は風邪とは違う。認知症の人に謝れ。」
宇宙「誠に申し訳ございません。」
5-2.宇宙(スカイ)警視正はトボける
立夏「さて、高田馬場の転落の件についてやけど。」
宇宙「はっ?」
立夏「『はっ?』じゃないわ。いとこの会社やろ。」
宇宙「い、いとこの会社も、い、いろ、いろいろと、た、たくさんありまして....」
立夏「となりにおるのん誰か知っとうやろ?締め技も名手やで。苦しまずに1秒で天国が見れるらしいで。」
秋 「そんなことないで。10秒以上苦しませて地獄をみせてあげる。」
宇宙「許して下さい。捜査上の情報を聞き出そうと言うんでしょう。」
立夏「警察手帳やったら持っとうで。」
宇宙「分かりましたよ。」
秋 「ようやく、吐く気になったか。」
立夏「ロープは切断されとったと言うのはほんまか?」
宇宙「本当です。」
5-3.4枚のピザとロリコンと家事に関係はある
店員「ご注文のケーキセット3人前お持ちしました。」
立夏「あれ?スカイはケーキセットと違うのん?」
店員「ご注文のピザ4枚お持ちしました」
立夏「誰や!ピザ4枚も注文したのは?ああ、もう....答えんでもわかっとる。」
秋 「警視正、なんで朝ご飯食べなかったんですか?」
宇宙「だって、誰も作ってくれないもん。」
秋 「可愛い子ぶってもあかん。何が『作ってくれないもん』や。今は、女が料理という時代とはちゃうんですよ。」
上谷「俺も自分で料理しますよ。」
宇宙「上谷さんは、私の倍以上の給料もらってるんだから、全部外食でいいじゃないですか?」
上谷「鳥取の私の家の近くは牛丼屋しかないんです。それに、給料の多い少ないではなく、今や男も料理を作る時代です。もしかして、掃除も洗濯もやってないんでしょう。」
宇宙「いや、それはやってる。掃除は全自動掃除機が、洗濯は週に1度、近くのコインランドリーでやってる!」
5-4.宇宙(スカイ)警視正の結婚観は歪んでいる
秋 「警視正の考え方を理解してくれる人が、おったらええな。」
宇宙「分かってますけど、そんな考えをした、年の離れた小さい子が、なかなかいないんです。下手に声をかければ、犯罪者扱いにされますし。」
立夏「声をかけようとする時点で、犯罪に足を突っ込んどるわ。」
宇宙「ロリコンは犯罪じゃありません。」
立夏「ロリコンは女の子に声をかけた時点で犯罪や!!!」
秋 「立夏はどうや。年も10以上離れとるし、小さくてかわいいし、昔から付き合いがあるんやろ。いとこやから。」
立夏「付き合いやなくて、腐れ縁やけどな。」
宇宙「とんでもない。姫様に手を出したが最後、切腹ですわ。」
立夏「そんなこと私が許さへん。」
宇宙「許してくれるんですか?」
立夏「許さへん言うとうやん。切腹と違うて、銀座引き回しの上、東京駅前で打ち首や。」
宇宙「ひえ~。末代までの恥さらしじゃ。」
立夏「じゃあ、秋はどないや?」
宇宙「世界最強じゃないですか。何回天国を見ることやら。」
秋 「そんなことないで。オリンピックで勝てたんは、たまたま運がよかっただけやし。」
宇宙「だいたいが男子金メダルの、トコちゃんにも負けたことないんでしょう。」
秋 「そんなことないで、トコちゃんには投げられっぱなしで....」
宇宙「そんなん、嘘や。」
立夏「スカイも関西弁が上手くなってきたで。」
宇宙「オリンピックの決勝見て、漏らしたんですよ。」
秋 「前もってトイレに行っとけんからや。警視正が漏らすなよ。」
5-5.宇宙(スカイ)警視正は丁寧な言葉で話す
立夏「ロープはどの位置で切断されとったん。」
宇宙「ゴンドラを吊り下げたロープは上の方で、増山の命綱は増山に近い所で切断していました。」
秋 「ほう!警視正が腹を切る位置と同じかな?」
宇宙「切腹はしません。そのような冗談は勘弁願います。」
秋 「そう言えば、この頃私にも、丁寧な言葉で話してくれるけど、何か下心でもあるのん?」
宇宙「深泥家の家訓が『強い相手に逆らうな』でして。」
上谷「ところで、25階の部屋の様子はいかがでしたか?」
宇宙「まだ、室内の塗装をしてなかったので、建材が散らばっていました。」
上谷「24階と23階は?」
宇宙「建材などはありませんでした。」
5-6.ゴンドラを支えるロープを切る
上谷「ロープはゴンドラの4隅についていたのですか。」
宇宙「そうですな。」
上谷「その他に移動用のロープがついていますよね。」
宇宙「そうなりますな。」
上谷「それなら、ロープを1本切られても、まだなんとか安定してますよね。」
宇宙「犯人は知らなかったのでしょう。」
立夏「ロープが切られたぐらいでは、増山は落ちへんかったというわけやな。」
宇宙「そういや、そうですな。」
立夏「ゴンドラはゆっくりあがって来るんやから、ロープが見えた時に切ったら上の方が切れるやん。」
上谷「しかし、それは体を乗り出して切ることになるため、増山に見つかるでしょう。」
宇宙「そういや、そうですな。」
上谷「増山はヘルメットをかぶっていましたか?」
宇宙「さあ、どうでしょうか?たいていは作業に入かぶるんだけど。」
立夏「なあ、スカイ。今日は特にやる気がないみたいやけど....」
宇宙「そんなことありません。いつも通り元気です。ただ、朝ご飯を食べなかったもんで。」
秋 「ピザを4枚も食べたのは誰や?」
宇宙「あまり食べたことなかったんで、どんなもんかな~と思ったんです。」
秋 「それでどうやったん。」
宇宙『練馬のダイコンピザ』と『目黒のサンマピザ』が意外と美味しかったです。」
上谷「それで、ロープの切断面は真っすぐきれいでしたか?」
宇宙「真っすぐシャープに切れているとの、報告を受けています。」
上谷「どちらのロープもですか?」
宇宙「そうです」
立夏「ナイフで切ったと思うんか?」
宇宙「そうです。必需品としてナイフを持つことになってますから。」
立夏「塗装になんでナイフがいるのん?」
宇宙「さあ、ナイフで色を塗るんですかね。」
上谷「ロープを切っても落下防止の柵がある限り、簡単には落ちませんよ。」
5-6.立夏と上谷が話し合う
上谷「命綱のロープについて考えてみよう。」
立夏「そうやなあ。次は命綱について考えなあかんなあ。」
上谷「なぜ命綱を切断したのか?なぜ体に近い所を切断したのか?増山は抵抗しなかったのか?」
立夏「なぜ命綱を切断したのか?これは簡単や。命綱を切断しないと落ちないからや。」
上谷「では、なぜ落ちなければならないのか?」
立夏「落下したら確実に死ぬからやな。25階から落ちて生きとった例があるんかどうかは知らんけど、普通の人は死ぬやろな。」
上谷「なぜ命綱を体に近い所で切断したのか?増山が抵抗するんじゃないか?」
立夏「増山が近い所にいたから切りやすかった。」
上谷「では、落下する前は増山は生きていたのか?」
立夏「24階で作業しとった花咲に『今夜飲みに行くか?』と声をかけとう。この供述が本当やったら増山は25階までは生きとったということや。」
上谷「花咲が嘘を言っていた場合には、増山はどこで死んだか分らない。25階から飛び降り自殺したとも考えられる。」
立夏「飛び降り自殺?自分で命綱を切った後、ゴンドラのロープを切って、飛び降りたとでもいうのん?妻を亡くしたうつ病から?」
上谷「『今夜飲みに行くか?』と言った後すぐに自殺と考えるとおかしい。自殺直前にそんなこと言うか?心理的にはおかしい。」
立夏「なぜ25階なんや。なぜゴンドラなんや。エレベーターを使ってもっと高い階まで行って、飛び降りる方が自然で合理的や。自殺説に誘導したのがおるんや。」
上谷「自殺説に誘導しようとしたのはあの4人でしょう。」
上谷「川中さんが、『建設課松永班自体の経理には問題が多いですね。物品の個数が合わないとか、単価が違っている』と言っていた。かなり広範囲で会社の物品の横流しや出張の経費のごまかし、作業人数の水増しなど、組織的な不正があると思われます。」
立夏「松永課長の部下の多くが関与しとると思うねん。増山はその実態を暴露しようとして殺されたんやろな。」
6.九条物産
6-1.九条物産の会議室で話し合いをする
上谷「ちょっと違和感があります。落ちるときに悲鳴が聞こえたという証言がありません。覚悟の自殺なのかそれとも意識がなかったのか?」
立夏「意識がなかった。死んどったのかも知れへん。」
立夏「ちゅう訳でやな、25階にあった鉄パイプの中から、犯行に使ったものを捜して欲しいねん。」
秋 「なんでいきなり鉄パイプの話になるのん。」
宇宙「はぁ。時間がかかるかも知れませんよ。」
立夏「今回の殺人は24階の窓からゴンドラに乗り込んで、鉄パイプで頭を殴り、命綱を切って、増山さんを落とし、25階の窓から部屋へ帰るというものや。ゴンドラはゆっくり上昇するから、24階でゴンドラに乗り込まんと、25階で増山さんを落すことができへん。増山さんが息を吹き返す危険性があることを考えると、23階からゴンドラに移るのは考えられへん。実行犯は花咲だが、指示したのは松永やろ。」
立夏「血痕が付いたところは削っとるかも知れへんから、そこのところ宜しく。」
宇宙「『宜しく』言うて、どうすればいいんですか。」
立夏「どこかに証拠があるかもしれへん。それを捜すのが警察の仕事や。」
宇宙「できないかも知れませんよ。」
立夏「漏らしてからネガティブな人間になったな!!!富士樹海で性格を叩き直したろか。」
宇宙「許して下さい。お漏らしはショックだったんです。富士樹海は許して下さい。逃げようとすると幽霊に囲まれるというところでしょう。」
上谷「お菊で慣らさないからですよ。」
立夏「無条件に言うことを聞くと理解してええんやな?」
立夏「無条件に言うことを聞くと理解してええんやな?」
宇宙「姫様の意のままに。」
立夏「メグはどこにおるん?」
秋 「多分、サマーマンションにおるで、今月からサマーマンションに引っ越したから。『もう卒論も出したし、就職も決まったし、天国です』と言うとった。」
立夏「メグの卒論は私が書いたし、就職は九条ホールディングスやねんけどな。」
6-2.西島昴、召喚される
立夏「ちょっと総務部に行ってくるわ。」
宇宙「何をしに総務部へ行かれるのですか。」
立夏「知り合いがおるねん。総務部長西島昴。私たちの仲間や。」
上谷「どこかで聞いたことのある名前だな。」
立夏が総務部のドアを開けて入ると、総務部員が、
総務「入ってこないで下さい。総務部には秘密事項の書類がありますので。」
立夏「すぐ出ていく。昴来てくれへんか。」
昴は顔を上げると立夏を見た。
昴 「九条さん!すぐ参ります。」
会議室のドアを開けて中へ入ると、
上谷「思い出した。お前は近畿代表の西島昴4段。」
昴 「そういうお前は、中国四国代表になれへんかった上谷優也4段やないか。」
上谷「俺と同じ相手に負けたくせに。俺は延長まで行ったぞ。」
昴 「俺も判定負けや。それでも全国3位やぞ。」
立夏「まあまあ、2人は知り合いか?」
昴 「いいえ。でも全国で戦うかもしれへん相手は研究しています。近畿予選の方が先でしたから。中国四国の2人はよく見てました。上谷さんはスピードのある蹴りが得意なので、接近戦の方が有利とかですね。」
メグ「こんにちは、皆さん。下山恵で~す。メグって呼んで下さい。」
秋 「メグ。昼間から飲んどるんか!」
メグ「そんなわけないじゃないですか。これから楽しい練習があるのに。」
昴 「下山恵に西園寺秋。金メダルが2つも。これが仲間なのですか?」
秋 「私、マラソンでも金メダル取ったから3つやで。」
上谷「俺が数に入っとらんぞ。」
7.九条土建
7-1.九条土建ビルに集合する
立夏「この他に柔道金メダルの深泥心太と、弓道で全国5連覇中の深泥桃がおるけどな。警察庁の小屋から新橋に向かっとる。」
秋 「何度か行ったことがあるわ。犬小屋を大きくしたような小屋やね。」
メグ「私もこのあいだ行きました。今にも壊れそうな小屋のことですね。」
立夏「スカイが高所恐怖症やから、あの小屋から出られへんねん。」
宇宙「小屋言うな。あれでも東京都の文化財に指定されとるんだ。」
立夏「大正時代初期の木造建築物で、関東大震災や東京大空襲で、まわりの家が全焼し焼け野原になっても、焼けへんかったという、不思議な建物やねん。私らも新橋の九条土建へ行こう。」
宇宙「こんなに集めて何をするんですか?」
立夏「悪を退治するんや。戦いが始まったら警官を呼べるだけ呼んで。」
昴 「しかし、でっかいビルやな。何階建てなんやろ。」
立夏「50階建てや。土建屋やから大きいのん建てなあかんいうて、無駄に大きいのん作りよった。実際使うとるのは20階までで21階から45階までは貸し物件にしとるねん。結構人気があるみたいや。屋上は無料展望台になっとう。」
秋 「50階は柔道場になっとう。昼休みは九条土建の華道同好会と茶道同好会が使うとるねん。同じ階に、更衣室、シャワー室、ランドリー、キッチン、トイレ、保育所があって、保育同好会が順番に保育をしとるねん。
昴 「保育同好会?」
立夏「会社公認の同好会で、将来九条保育所で働くための実技施設や。1日2人保育士が常駐する。インターンもできる。保育所をぎょうさん作っとるから、保育士不足やねん。給与は九条土建と同じ。東京の九条グループ対象で、週に4時間の保育士の資格試験用講座もあるから、ほぼ全員が資格取るで。他の保育所に転職してもええで。」
秋 「練習は階段を駆け上がるだけでアップになるで。メグはしんどいらしいけど。」
メグ「しんどいです。秋さんにはかないません。神戸五輪のマラソンを世界記録で優勝する体力ですから。」
秋 「誰かがマラソンは2時間を切れないと言ったらしいけどな。それにしても運が悪かった。2位同着の方が受けが良くて、健闘を讃え合って抱きあってる写真ばっかりやった。私なんか写真もなくて『優勝は西園寺』とだけ書いている新聞さえあったわ。優勝しとうのに写真もないもんな。向こうの方が絵になるもんな。私なんか知らん間に金メダル取っとったみたいに書かれて....」
メグ「だけど、2度と破られない、不滅の大記録と言ってましたよ。」
秋 「そんなん嘘や。私は破れるで、全力やないもん。」
トコ「立夏さんお待たせしました。」
桃 「地下鉄を乗り間違えてしまいました。」
トコ「今日は何があるんですか?」
立夏「九条土建の悪党団を全部倒す。ピーちゃん弓と矢は持って来とうな。」
桃 「もちろんで御座候。今日こそ弓道の神髄をみせましょう。」
立夏「三郎兄ちゃんを連れて来て。」
三郎「立夏、今から何が始まるのだ?」
立夏「増山を殺した犯人グループを捕まえる。簡単に言うと、鉄パイプで頭を殴り、ゴンドラに飛び乗り、命綱を切って、増山を落とし、窓から部屋に戻って、ゴンドラのロープを切った犯人を捕まえる。」
上谷「しかし、そんなことやったら、近くで作業している連中にバレてしまう。となると、他の3人も共犯だ。」
立夏「不正に会社から金品をかすめていた連中が、増山を殺した犯人グループや。それを退治する。敵は16人。」
7-2.悪党どもは思い上がる
松永「邪魔者は無事に消せたな。いらんことを嗅ぎまわるからだ。あとはあの探偵面した2人を始末しとけば、悪事はバレねえ。」
子分「頭領、あの探偵面した野郎ども何人かの客に紛れて、このビルの1階に入りましたぜ。やっちまいましょうぜ。こちらには空手京都代表の八橋3段と、柔道強化選手になった秋葉4段もいる。こいつらを仲間にしといてよかったぜ。この時のためにいるんだからな。」
八橋「頭領、この八橋が八つ裂きにしてやりますぜ。」
東京「頭領、この秋葉も忘れちゃいけませんぜ。」
松永「『頭領』痺れる呼び名だ。いかにも悪党の大将らしい呼び名だ。よし、全員を集めて1階のエントランスに攻め込むぞ。行け子分ども。」
7-3.悪党どもはビビる
子分「観念しな。こちらには空手京都代表の八橋3段がいるんだぞ。」
上谷「西島、知っている奴か?」
昴 「知らへん。確か京都府代表は橋立5段やったと思うけど、近畿大会で早々と負けたで。八橋なんか知らへん。記念出場やったんかなあ。京都市代表で京都府大会で負けたんとちゃうんかな。京都市代表言うても確か京都は人口割やから10人ぐらいおるし。」
八橋「お前は全国3位の西島!そっちは中国四国準優勝の上谷!これはまずいですよ。あの2人、どちらも俺より強いです。」
子分「お前も京都代表だろうが!」
八橋「あいつら、全国級です。俺とは格が違います。どちらも全国優勝が狙えるレベルです。なんであんなのが2人もおるんや。」
子分「それじゃ、女の方を狙え!」
秋 「メグ、トコちゃん、あいつ知っとる?強化選手や言うとるけど。」
メグ「強化選手言うてもカスからハズレまでいますから。あんなん知らんわ。」
トコ「同じ東京都やけど知りませんね。何の強化選手だったのかな?」
上谷「西島、秋さんの動きを見てみろ。俺も見た時は驚いた。」
昴 「いや、変やな。目がおかしくなったんか。秋さんの動きが見えへん。あっ空手が気絶しよった。」
上谷「西園寺流と言っているが、単に運動能力が認識能力に勝っているという簡単な理屈だ。しかし、簡単で予備動作がないから、対抗できる有効な手段がない。」
昴 「挌技で予備動作なしであんなことができるんやったら無敵やで。いや、あの半分でも最強やろ。まだ始まってから数秒やのに2人で10人以上倒しとる。」
上谷「だから秋さんの弟子は、あの半分以下のスピードでも、全員金メダルを取っている。」
昴 「秋さんに逆ろうたら命も危ないやん。ああ、それで五輪決勝はインチキが許せんで半殺しにしたんやな。」
上谷「秋さんの弟子のメグは、柔道で最強と言われた下山さんの妹だ。階級に関係なく、女子では間違いなく秋さんの次に強い。元々強かったが、弟子になってから性別を超えるぐらいに強くなった。実力は男子の4段ぐらいはある。男子の県代表クラスなら4分の3ぐらいは負けるんじゃないか。男子でも日本代表が狙える。秋さんは最強と言われた下山さんにも、負けたことがないらしいから、恐らく男女を問わず最強だ。」
7-4.桃は弓道の神髄を見せる
松永は、子分が全員倒れているのを見て、ピストルを取り出し三郎に銃口を向けた。
松永「あんたに恨みはないが、九条社長、死んでもらうぜ。」
立夏「兄ちゃん、狙いが定まらんように動き。」
松永「こら、動くんじゃねえ。狙いが定まらないじゃないか。」
その時矢が飛んできて銃口に刺さった。
桃 「動いてるものも撃てなくて、飛道具を使うんじゃない!もうそのピストルは使えないぞ。撃てば暴発する。」
松永はその場に座り込んだ。
松永「もし外れていたら頭に....」
桃 「ボクの矢は外れない。必ず狙ったところへ飛ぶ。」
昴 「お~、すごいのがおるな。矢で銃口をうてるんか!」
立夏「ピーちゃん以外にそんな奴おらへんわ。」
上谷「あれが弓道全国大会5連覇中の深泥桃、別名ピーちゃんだ。弓道の神髄や。すでに人間の域を超えている。射撃も名手だが、『弓の方が確実に当る』と言っている。『現代の那須与一』といわれているが、実力は那須与一よりはるかに上、当時なら軍神レベルだ。」
立夏「やっはり、戦えばこうなるわな。」
松永とその子分たちは、スカイの連絡を受けて出動した警官によって、ドナドナされて退場して行った。
8.もう冬やなあ
8-1.寒い冬もこたつがあれば暖かい
秋 「とうとう寒くなってきたなぁ。」
立夏「壊れたエアコン、修理しとったらよかった。邪魔くさかったし、こないして、秋の部屋におったら、暖かいし。お茶やお菓子が出て来るし。」
秋 「お菊がおらへんから、お茶やお菓子はもう出て来やへん。」
立夏「お菊!戻って来てくれ!」
秋 「とりあえず、こたつに入ろか。」
立夏「私、こたつから出られへんわ。」
秋 「気を付けんと寝てしまうで。」
立夏「秋の部屋はこたつがあるから暖かいわ。」
秋 「もう冬やなあ。みかんでも食べるか?」
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