1.神戸
1-1.口先で相手を負かす
昴 「秋さん!」
秋 「何や、愛の告白か?2人目やで、1人目はトコちゃんやった。」
トコ「あれは弟子入りのお願いや言うとうやんか。」
秋 「関西弁が板についてきたな。もうちょっとで関西人になるで。」
昴 「僕のライバルはトコちゃんさんと言うことですね。」
トコ「ちゃう言うとうやろ。俺のは結婚の申し込みと違う。」
秋 「卒業するまで待ってね。」
トコ「スカイ兄ちゃんより先に結婚するわけにはいかない。スカイ兄ちゃんが結婚するまで待っててくれ。」
秋 「あんなロリコンのど変態は、100年経っても結婚できないわ。」
宇宙「なにおう!」
秋 「小さい子でも年を取るのよ。そうしたらロリじゃなくなるのよ。」
宇宙「年を取らない子と結婚するんだ。」
立夏「とうとう物理法則を捻じ曲げてきよった。スカイの負けや。」
秋 「それで昴さん何の用事や?」
昴 「とりあえず、今のは何ですか?」
立夏「口先相撲や。ちなみに今のは秋の勝ち、スカイの負けや。物理法則に反したからな。『年を取らない子』と言ったからな。」
1-2.異種格闘技をやってみる
昴 「一度試合をしてくれませんか?」
秋 「ええけど、柔道?それとも口先相撲?」
昴 「では柔道でお願いできますか?」
秋 「いや、空手対柔道の異種格闘技にしょう。」
トコ「昴さん、先に言うときますけど、めちゃくちゃきついですよ。」
メグ「慣れてきたら、体が千切れそうな快感が体中を駆け巡り、くせになります。めっちゃ楽しいですよ。」
トコ「どM娘が、そんなんあんただけや。」
昴 「秋さん、では参ります。」
昴のスピードのある蹴りが、秋の頭部に炸裂したはずだった。しかし秋は最高速で蹴りをかいくぐって昴の背後に異動した。そこから裏投げで一本となった。
次の試合では、昴の正拳突きの腕を取って山嵐を決めた。
昴 「手も足も出んとは正にこのことや。距離を取って戦ったら、空手の方が有利やと思うんやけど。」
上谷「俺もそう思う。次は上谷行きます。」
上谷は得意の距離を取る戦い方をしたが当たらない。足を引くのに合わせて上谷を後に倒してそのまま締め技に入った。上谷は打ちに行こうと手を振り上げたところで失神した。
メグ「師匠の高速の締め技が炸裂ですね。一瞬で脳の血流を止める技術すごいです。あれ、気持ちいいんですよね。」
トコ「どM娘が、そんなんあんただけや言うとうやんか。」
メグ「この快感を師匠と共有したいんですが、なかなか勝てないんです。」
トコ「なかなかじゃなくて全然やろ。」
昴 「ロリコンや、どM娘がおって、なかなかユニークなグループやな。」
秋 「空手との戦い方がわかって来たで。さて、昴さんは力が入りすぎや。倒さなあかんという気持ちが先走っとう。その緊張が筋肉を固くして、練習に比べてスピードを落ちてもとう。上谷さんはそこら辺はまあまあやけど、基本ができてない。技を打ち出すスピードはあるが、その後守りの構えに引くのが遅い。昴さんも少し守りが遅い。どちらも段々スピードが落ちていくのは、心肺機能を高める練習が不足している。次は、トコちゃん」
トコちゃんは一瞬で投げられた。
昴 「上谷さん、トコちゃんさんは金メダルでしたね。噂には聞いとったが嘘やと思てました。まるで相手にならないやないですか。」
秋 「トコちゃん、そんなんやったら弟子を首にするで。」
トコ「必ず倒します。待ってて下さい。」
秋 「大学を卒業するまでは待ってあげる。」
1-3.冬休み合宿はメグ好みである
秋 「来週から大学は冬休みになります。従って恒例の冬休み合宿を行います。場所は、私の実家の西園寺家でしたが、この間から立夏の実家にもなりました。親は私の給料を当てにして自堕落な生活を送っていると思いますが、気にしないで下さい。子供柔道教室は昴と栞が行って下さい。昴は練習見とったからわかるやろし、栞も何かできるんやろ?」
昴 「栞は天才と言われてるんですが、残念ながら書道です。」
しばらくして、
立夏「尻取りの中山が柔道初段や言うとったけど?」
秋 「ん~。小学生より弱いけど、口先だけのコーチならなんとかなるかも。」
立夏「秋は初段やんか?」
秋 「私は初段でええねん。そのぐらいの実力やからな。勝負となると別やけど。」
メグ「恒例で特訓があるとは知りませんでしたが、ワクワクします。」
昴 「ところで会社の休みに練習に行っていいですか?」
上谷「僕もいいですか?」
秋 「ええけど、体力養成やで。まあ、部屋はなんぼでもあるから別に来てもうてもええんやけど、練習には付き合ってもらうで。」
メグ「お兄ちゃん、冬休み神戸で合宿する。しばらく帰って来んから宜しく。」
下山「まて、恵。お前、その前に卒論は?就職は?」
メグ「卒論は提出したし、就職は九条ホールディングスというところに決まったし、とりあえず心配なし。」
下山「このどMアホ妹が!九条ホールディングスなんか入れるわけないだろう。超一流企業で、東大卒のエリートでもなかなか就職できないんだぞ。」
メグ「私も一応、スボーツ推薦だが東大のエリートなんだけど。入社試験受けてないからよく知らない。アホはばれてるんだけど、特別枠とかで入社することになった。」
下山「公募せずに年間数人かしか取らない、九条総帥が選んだ者だけが入社できるという噂の特別枠か?特別な能力がないといかんのと違うんか。どMは特殊能力か?都市伝説やなかったんやな。給料はいくらや?」
メグ「月給200万円と聞いたけど。」
下山「俺も解説も柔道連盟の理事長も辞めて、そちらに入りたい。理事長なんか名誉職で大した給料が出るわけじゃなし。解説は不定期で安いし。柔道のテレビ放送はそんなにないし。講演や柔道教室で食うには困らんけど。」
メグ「立夏さんに聞いてみるわ。立夏さんが今の九条のトップらしいから。」
2.火事
2-1.主婦の噂話は井戸端会議という
秋 「お昼からの練習のアップとして、今日は保久良神社にジョギングしましょう。皆さん、ジョギングだから、そこそこでやりましょう。」
トコ「一生懸命走っても追いつかないのですが。」
秋 「そうですか。では、私について来て下さい。保久良神社のお賽銭を忘れないように。」
秋 「みなさんおはようございます。昨日は昼から軽くやりました。今日から3連休。合宿初日です。早速3連休で空手組が参加しますが、いつも通りやりましょう。まず、目覚ましのジョギングで、六甲山中腹のいつもの神社まで3往復しましょう。ついて来て下さい。あまり遅いと呪われます。」
走り出して秋だけが3往復終わった時、近所の主婦が声をかけてきた。
主婦A「秋ちゃん、昨日の火事の話聞いた?」
秋 「何ですか?昨日の火事って?」
主婦B「南さんところのお宅が火事になってご主人の庄之助さんが亡くなってん。」
主婦A「去年、奥さんが病気で亡くなってなあ、由香ちゃん一人っ子やったから、かわいそうになあ。」
主婦B「火事言うても家が全部もえたわけとちゃうねん。ご主人の部屋が燃えただけで消防車が消したんやと、ご主人は運悪く昼寝しとったらしいねん。」
秋 「放火?犯人はわからへんのん?」
主婦A「それが、南さんの由香ちゃんとお付き合いしていた、本杉達也君の弟の和也君が警察に連れていかれるのんを見たで。」
主婦B「3人とも同学年やねん。」
秋 「それ、達也と和也は双子とちゃう?野球やってへん?」
主婦B「双子と違うで。それに野球はしてへんかったと思うけど。何でそんなこと聞くのん?」
秋 「いや~そんな話を聞いたことがあるような気がして....」
主婦B「由香ちゃんは1浪して大学に入ったのに、去年お母さんが亡くなられたショックで1年休学してん。達也君は2浪したし、和也君は現役で合格したから、みんな同学年になっとうねん。」
主婦A「南さんとこは一軒家で、周りに家がないから、燃え移らんかったらしいわ。家の周りの木も伐採して庭にしとったし。」
主婦B「ご主人は運が悪かったんやなあ。せっかく冬休みになったんで、由香ちゃんも帰って来るはずやのになあ。」
秋 「その3人はどこの大学や?」
主婦A「あれ、知らんのん?学校で顔合わせへん?3人とも秋ちゃんと同じW大学や。」
秋 (何万人もおるマンモス大学で、顔合わせる方が珍しいわ。)
秋 「弟子が戻って来たから行かなあかん。続きわかったら教えてな。」
2-2.秋の弟子たちは話をする
上谷と昴は地面にへたりこんでしまった。
上谷「さすが、神戸五輪のマラソンで優勝しただけのことはある。」
昴 「化け物や。登りでもスピードが落ちへんとは。」
上谷「それより昴、体の方は大丈夫なのか?」
昴 「医者も『もう、大丈夫や』と言うてくれてます。時々、検査に行かなあかんねん。三途の川を渡っとったのに引き戻してくれたのは、感謝しかありません。」
上谷「そうか、それはよかった。走るのを見てひやひやしてた。」
昴 「ありがとう。ところで九条さんの世界、なんやったかな『ギフテッド?』は面白いんですか。」
上谷「自分の性格が変わるぐらい面白い。見たこともない世界が見れる。」
メグ「私、一度、トコちゃんさんと試合してみたい。」
トコ「なんで俺なんかと試合したいのん。」
メグ「強い人と戦いたい。けど師匠には手も足も出ん。もしかしたら、トコちゃんさんには勝てるかも知れへん。」
トコ「俺に勝とうなんて100年早いわ。」
メグ「100年とは、トコちゃんさんは長生きですね。」
2-3.都市伝説調査課がある
秋 「と、まあ、そういう話やねんけどな。どない思う?」
立夏「そう言われてもなあ。違和感はあるけど。」
秋 「その南ちゃん~なぜか名字で読んどったんやけど~は東灘女子学院の数少ない友達でな。本杉兄妹は達也しか知らん、和也の顔は知っとる。達也とは浪人繋がりやから。南ちゃんが何とかなるんやったら、なんとかしてやりたいねん。」
立夏「その南ちゃんは今どうしとるんやろ?親戚の家にでもおるんやろか。すぐに捜して、神戸九条病院に保護せなあかん。南ちゃんの家はどこや?」
秋 「保久良神社の参道を少し登ったとこや。そう言えば昨日の昼13時頃、アップで保久良神社まで行ったけど南ちゃんの家は燃えてなかったで。」
立夏「その時、誰か見た?」
秋 「麻雀の弱い築地のおっちゃんがふらふら、和也に『金払え』と言われながら追いかけられとった。」
立夏「これは、都市伝説型の事件や。兵庫県警は平川警部やったかな。」
平山「はい、こちら捜査14課、都市伝説調査課です。」
立夏「九条立夏ですが、平川警部いらっしゃるでしょうか?」
平山「平川でなくて平山です。お久しぶりです。六甲山連続殺人事件以来ですね。今日は何か御用でしょうか?」
立夏「昨日の東灘の火事について担当部署はどこでしょうか?」
平山「詳しいことは知りませんが、消防署の管轄だと思うのですが。」
立夏「人体発火の可能性があります。何とか都市伝説調査課で捜査するように、手配して下さい。」
平山「人体発火?あれは単なる都市伝説では?」
立夏「だから、都市伝説調査課でやるんやろ。強引に都市伝説にして下さい。」
平山「分かりました、善処します。」
立夏「それとは別に生き残った南由香を、至急に保護して下さい。自殺の可能性があります。保護したら神戸九条病院へ連れて行って下さい。」
平山「分かりました。」
立夏「南由香の写真があったらメールで送ってください。」
平山「わかりました。」
立夏「それから、証言です。私の友人の西園寺秋が、昨日13時ごろ南家から築地がふらふら走り出て、和也が大声で『金払え』とか何か叫びながら、追いかけて行ったと言っています。真偽の調査をお願いします。その時は火の手は上がっていなかったと言っています。」
平山「西園寺秋言うたら、神戸五輪で金メダルを取った人ですよね。相手を半殺しにして。」
立夏「本人は気にしています。秋に『半殺し』と言わないであげて下さい。次の半殺しはあなたかも知れませんし、全殺しかも知れません。」
3.南由香捜しとトコちゃんとメグの対決
3-1.神戸九条病院に行く
平山警部が送って来た写真は、3人が並んで写っていた。真ん中が南由香、右が達也で左が和也と説明がしてあった。
立夏は公園のベンチに座っている女性が、平山警部から送って来た写真に似ているように思った。
立夏「南由香さんですね。」
北 「俺は男や。北建造というねん。」
立夏「失礼しました。南由香さんですか?隣に座っている北建造という男が、あなたを狙ってますよ。」
北 「大きなお世話や。しょせん北と南では水と氷や。」
立夏「そうか、水と氷か。似た者同士という意味かな?さて、南由香さんですよね?」
南由香はちらっと立夏の方を見て、小さい声で、
南 「はい。」
立夏「家には行かれましたか?」
南 「いいえ。」
とだけ応えた。
立夏「私は西園寺秋の友人の九条立夏と言います。あなたの力になります。どうぞついて来て下さい。」
南 「秋の?....どこへ行くのん?」
立夏「神戸九条病院です。あなたは入院の必要があります。」
南 「神戸九条病院って?あの有名な....」
立夏「九条ホールディングスの病院です。世界最高クラスの医療スタッフを揃え、新しい治療記録は成功例も失敗例もすべて発表します。最近では一定の条件下で脳死した人を蘇生させる成功例を発表しました。世界の医学の発展のために作った病院です。」
南 「あなたはお医者様?ではないですよね。どちらかと言えば、中....」
立夏「中学生でもありません!」
3-2.西園寺柔道場でトコちゃんとメグが戦う
トコ「これで、俺の2連勝だぜ。俺に勝とうなんて100年早いわ。」
メグ「さっき言った言葉、そのままじゃないですか。100年待って下さいね。」
トコ「畜生、メグの変な色気にやられたぜ。」
メグ「ここから逆転しますよ。100年分返しますからね。」
トコ「くそ、これで5勝2敗か。恥ずかしい限りや。」
メグ「とうとう関西弁が出ましたね。今までのようにはいきませんね。」
メグ「あれから全然勝てなくなった。2勝8敗か。まだまだ練習が足らんな。」
トコ「何言うとる。俺はこれでも金メダル取っとるんだ。メグは男子でもベスト8以上の実力がある。」
秋 「トコちゃんが去年まで勝てへんかった倉田より強い。守りがそこそこ固く、攻撃が多彩や。倉田は守りが甘かった。つまりメグは男子73kg以下でも県の決勝まで進む力がある。」
メグ「でも、私も金メダルやのんに10試合やって2勝しかできない。」
トコ「メグ泣くなよ。また、いつでも相手したげるから。」
メグ「ほんと?それなら今から10試合。いくらでも投げて下さい。」
トコ「メグ本気か?手抜きはしないぞ。」
メグ「あたり前田のクラッカー。手抜きしたら殴る。」
トコ「もう一回泣かしたる。」
メグ「泣くのはトコちゃんさんや。」
トコ「見たか俺の強さを、とは言えないな。」
メグ「3勝7敗か。5分にしたいのに。」
秋 「もう今日は終りや。黙っとったらメグは何回でもしたがる。その執念。今のままやと、トコちゃんに勝ち越せる日も近いで。二人とも、しっかり闘うとったが、全国の柔道家の目標とされとるのんを忘れへんようにな。」
メグ「ところで、立夏さん、うちの兄ちゃんが、九条ホールディングスに、入りたがっているんですが、なんとかなりませんか。」
立夏「ええで。でも、条件をつける。秋の弟子としてカムバックして、春の全国大会で優勝したら、実力を認めて九条ホールディングスに雇用する。『ギフテッド』を持ってるのは知っとる。メグと同じ『ギフテッド』や。『広報部長の席は空けとくから登って来い』と言うて。月給を聞かれたら、『月給は250万円や』と言うといて。秋、それでええか?」
秋 「それでええけど、元々私の弟子やねんけどな。」
3-3.南ちゃんは適応障害という病気に罹る
南の担当は、北川と言う若い医師であった。若いと言っても26歳以上である。他の病院でインターンをしていれば30歳以上の場合もある。
北川「それではまとめてみますと、不眠、食欲がない、めまい、頭痛、動悸、不安感、絶望感、泣いてしまう、何も興味がない、ネガティブ、思考・集中力低下、人間関係の心配、と言った症状ですね。お父さんが亡くなられてからのことですね。自律神経系の乱れだと思いますが、念のため、他の病気がないかいろいろな検査を行いましょう。」
南 「病名は何ですか?」
北川「とりあえず、ストレスによる自律神経の乱れとしておきましょう。適応障害や自律神経失調症という病名もありますが、検査をしてみないとわかりませんね。なんでもかんでも適応障害や自律神経失調症で済ます医師もいますが、われわれは正確な判断をして、効率的な治療を行うために、つらいかも知れませんがいろいろな検査を行い病名を付け、治療する努力をします。」
南 「生活で注意することはありますか?」
北川「やりたいことをやるのがいいでしょう。とりあえず、検査入院として1~3ヶ月入院して頂きます。居心地が良かったら言って下さい。九条さんと相談して延長します。必要な物があれば看護師に相談して下さい。」
看護師「では、最上階の病室へご案内します。」
3-4.南ちゃんは特別室にいる
南 「こんな立派な病室見たことないですよ。」
看護師「西園寺秋様のご友人と言うことで、九条立夏様のご指示で用意しました。特別室です。ゆっくりなさって下さい。月水金の20時頃に担当医の北川が火木土は他の医師が、ご様子を伺いに参ります。当院の医師は週3日勤務です。看護師は交代で常時2人がお世話を致します。なお、この階は九条家の私有物ですので出入りに指紋認証が必要です。自由に出入りできるのは、立夏様と秋様、あとは医療関係の者となっております。これは、外からの侵入を防ぐためのものですから、南さんには電子キーを預けておきます。この鍵で自由に出入りして下さい。お見舞いの人は看護師が対応します。病室でも応接室でもお好きな方でご面会下さい。会いたくない場合は『病状が思わしくない』とか何とか言って追い返します。」
会計「会計です。料金についての説明を致します。この特別室は九条家の私有物ですので、室料は頂きません。なお、ここで飲食した分も無料となっております。電化製品の電気代も無料です。」
看護師「お風呂は24時間利用できます。サウナを利用するときは30分前にご連絡下さい。寝間着はどのようなものがお好みですか?」
北川「2年続けて、両親を亡くしたストレスによる、適応障害ですね。去年お母さまを亡くされたとき休学したようですね。うつ病に移行する前に根治することが目標です。普通は寛解を目標としますが、我々は精神系の疾病においても根治を目指し、医学の発展に寄与します。」
立夏「南ちゃんに負担がかかることはないでしょうね。」
北川「もちろんありません。」
立夏「では経費が発生すれば、私のところへ請求をお願いします。秋、九条会館に連絡をして。明日お通夜、明後日告別式の手配をお願い。部屋は一番大きいのを。南ちゃんは喪主ですが、病気で無理なので、私が代理で喪主を行うことも付け加えといて。喪主の件は九条全社と南ちゃんに伝えといて。」
秋 「がってん承知の助。」
3-5.秋と立夏がお見舞いに行く
秋 「私、ちょっと南ちゃんと会って行くわ。」
立夏「じゃ、私も。って二人ともお見舞い持って来とるもんな。」
南 「二人は本当に友達だったんや。」
立夏「疑ってたんか?私は嘘は言わへん。」
秋 「いやいや、とんでもない嘘をつくやんか。」
南 「何でふたりは友達になったん。」
秋 「それはな、去年の4月のこんな雪の日やった。」
立夏「今、雪なんか降ってないけど。」
秋 「立夏の幽霊マンションに転居してん。」
立夏「幽霊が出るのは秋の部屋だけや。」
秋 「そしたら、部屋も隣同志やし、大学の学部も学科も一緒やし、講座も同じのんが多かってん。」
南 「秋の部屋は幽霊がでるのん?」
秋 「もう出えへん。出て欲しいんやけどな。ええ奴やで。次に会えるんは来年のお盆に西宮や。」
立夏「とりあえず、私の名刺渡しとくわ。九条のスーパーなどで使えるクレジットカード付きや。1日の上限は3万円。1階のコンビニや9階のカフェレストランでも使えるで。繰り越しはなしや。使た分は払わんでええ。」
秋 「元気になったら、みんなで姫路城に行こか。お菊さんに会いに行く約束をしてるねん。」
南 「お菊さん言うて、『播州皿屋敷』のお菊さん?」
秋 「本人は『世界遺産のお菊』と言うとるけどな。」
南 「呪われへん?」
秋 「何か、呪われるようなことをしたん?」
南 「さあ???」
立夏「普通の人と変わらんで。人やないけどな。江戸時代のことは、よく知っとってやけど。」
秋 「動物飼うぐらいやったら、幽霊と同居した方が絶対ええで。」
立夏「私もそう思う。」
秋 「立夏は最初、めっちゃ恐がっとったやんか。」
立夏「もう記憶の彼方に霞んだ、遥か遠い昔の些細なできごとや。」
秋 「9か月ほど前のことや。」
南 「秋はオリンピックで金メダル取ったんやろ。見せて。」
秋 「ちょっと待っとき。鞄に放り込んだ思うんやけど。おっ。あった。」
南 「扱いがちょっと雑と違うのん。」
秋 「これが、『半殺しの金』で有名になってもた金メダルや。実は団体の銀メダルがあるねん。決勝で深泥と下山妹と私は勝ってんけど、後の3人が負けてな。優勝決定戦で、『私が行く』言うたのに、『男子の重量級に勝てるわけがない』言うて重量級の男子が行って、あっさり負けてしもた。気が悪い銀メダルや。欲しかったらあげるけど、多分銀メッキやで。金はあかんで。」
4.容疑者捜しと4人の対決
4-1.井戸端会議とは主婦の噂話のことである
秋 「みなさんおはようございます。特訓2日目です。昨日から3連休で休日組も参加していますが、いつも通りやりましょう。今日から下山7段も参加します。まず、目覚ましのジョギングで、六甲山中腹のいつもの神社まで3往復しましょう。私について来て下さい。午前中は基礎練習が中心です。昼からは乱取りを気が済むまでやりましょう。今日は6時に練習を終え、お通夜に行きます。なお、正月期間ですので、子供柔道教室はお休みです。私たちは正月3ヶ日は練習はありませんが、1日に生田神社の御祈祷をお願いしてます。2日目は六甲山神社に行きます。3日目は温泉神社です。正月3ヶ日は電車やバスは走っていません。しかし心配はいりません。私たちが走ればいいのです。」
メグ「師匠、だんだん距離が伸びて行くなんて、私の好みをよくご存じですね。」
下山「俺、肥えてるけど大丈夫かな?」
メグ「日に日に苦しくなっていく練習、とても楽しいですね。」
秋 「メグの好みはともかくも、メグはもっと強なるやろと思うわ。」
秋が3往復目を終わった時だった。
主婦A「秋ちゃん、昨日の話の続きがわかったで。」
秋 「何で全焼せえへんかったん?」
主婦B「平屋でご主人の部屋は道路に面しとったし、スプリンクラーがあったし、燃えた部屋のすぐ南側が池やったやろ。池の水ですぐ消火できたんと、庭が広くて消防車が何台も入れたかららしいで。」
秋 「私、何回か遊びに行ったことあるけど、あれ平屋というのん?階段状の3階建てや思うんやけど。そやけど窓はみんな南向きで、家の高さはあまりないのに池越しに神戸の街がよく見えたで。」
主婦A「しかしなんで火事になったんやろ?やっぱり放火。タバコの火の不始末?いっそ法律でタバコ禁止にしてもたらええのに。」
主婦B「税収の問題があるから、廃止は難しいねん。それに今回の関係者知っとうけど誰もタバコ吸わへんで。」
秋 「和也君いうて、放火するような悪い子やったん。」
主婦A「そんな子には見えへんけど、あの年頃の子はわからへんからなあ」
秋 「他に誰か捕まったん?」
主婦A「魚屋の築地さん。いつも麻雀で負けとったらしいで。和也君が強くて小遣いを稼いどったらしい。」
秋 「そんなんで築地さん放火するかな?いや、するかもな。」
主婦B「死んだご主人と豊洲さんの奥さんが浮気しとったらしいで。豊洲さんも奥さんも、老眼鏡がいる年やのに、浮気やなんて。ねえ。秋ちゃん。」
主婦A「老眼がひどなって、男前に見えたんと違う?」
秋 「それで、豊洲さんのご主人が仕返しに?う~ん、それもあるかも。」
主婦A「他にはこれと言って犯人らしいのは知らへんで。」
秋 「和也君、何が怪しいんやろ?」
主婦B「さあ?」
4-2.最強の柔道解説者が戦う
昼から試合を行った。
メグ「また2勝しかできなかった。」
トコ「2敗してしまうか。最高速やのんに。」
メグ「師匠に比べたらトロトロですよ。マグロのトロみたいにトロトロです。」
トコ「なにおう、と言えないのが悲しい。」
下山「私なんか全敗ですよ。」
秋 「どないした。腕が鈍ったんか。最強の柔道解説者。」
下山「狭い世界で最強と言われても意味がない。師匠のような絶対的な強さが欲しい。九条ホールディングスも魅力だが、勝負の世界はやはりいい。なんで引退してもたんやろな。勢いでつい『引退する』と言うたのがまずかった。」
秋 「さあ、次行こか、トコと兄、私と妹。」
昴 「俺のひとつ勝ち越しやで。」
上谷「今から練習の成果の高速の蹴りを見せてやる。」
昴 「一緒に練習しとったから、手の内バレとるわ。この2日で強なった俺を倒せるんか?」
上谷「倒す!」
トコ「5分5分か。老いたとは言え、さすが最強だ。」
下山「誰が老いとるんじゃ。金メダルとは言え、体重の軽い選手に負けるとは。」
メグ「全敗か。師匠のスピードについて行けない。」
秋 「メグ。強なったで、その調子で伸びて来い。」
秋 「さあ、次行こか、トコと私、兄と妹。」
トコ「全敗か、師匠はやはり強い。」
秋 「あきらめたら、そこで試合終了だよ。」
メグ「3勝しかできんかった。」
下山「メグ、動き回るから、息が切れて危ないとこだった。」
秋 「空手組どうや」
上谷「2日間で35勝34敗です。勝ち越した内に入りません。判定負けはなしですから、大会になればどうだか.... 午前中の基礎練習の成果を早く出せるようにしたいです。」
昴 「上谷さんと知り合ってよかったです。こんないい練習相手はいません。実力は5分と思います。休みの度に練習したいです。」
秋 「じじいが芦屋山手の土地売って、一度に4試合できる無駄に大きな道場を建てたから、練習がはかどるわ。大会でも主催するつもりやったんかな。神戸も東京も道場はいつ使ってもええで。」
下山「芦屋山手って高級住宅地で地価が高いですよ。」
秋 「数億円言うとったな。私にろくに仕送りしてくれんから、貧乏や思とったわ。まだ。六麓荘にかなりの土地があるらしいんやけど。買うたん違うて自分で開墾したらしいんや。」
下山「よく、そんなこと、わかりましたね。」
秋 「じじいを締め技で10秒かけて落としたら、すぐに吐きよった。ところで下山、上谷と昴を見てどない思う。」
下山「最初に見た時よりも強くなってると思います。」
秋 「やったことは、山を走って、柔道の足さばきを速くする練習、あと柔道の速い技の練習やな。不細工やったやろ。あの二人はスポーツの『ギフテッド』を持っていない。簡単に言えば、運動能力が低い。だから同じ練習をしてもかなりきついはずや。でもあの2人は、ここで2日練習して2日分強くなった。190の『ギフテッド』を持つ『最強の解説者』は何日分強くなった?」
下山「心を入れ替えて練習に励みます。」
秋 「間違うな。努力、根性、精神力なんかいらない。必要なことをやれば、当然強くなるんや。」
5.密室
5-1.鍵が掛かった部屋を密室と言う
立夏と秋は南家の火災現場に行くことにした。
下山兄は西園寺家に居候するらしい。
祖父「今までで一番暑苦しい奴が戻って来よった。冬にはちょうどええかも知れへん。」
父 「まさかと思うが秋を狙っとるんとちゃうか?」
下山「ちゃいます。私には妻も子もいます。年の離れた妹もいます。私は人生をかけて戦うんです。未来をこの手で切り拓くんです。」
秋 「下山兄、めっちゃ格好ええやん。でも、言うただけのことは、せなあかんで、覚悟しときよ。ところで、私のどこが嫌なの?」
下山「答えたら締め落とすつもりでしょう。」
現場は屋根は一部燃えてしまった。ガラスは割れているが壁はまだ全面残っている。激しく燃え広がったり、爆発したわけではなさそうだ。しかし、秋は燃え残ったドアを開けて室内に入ろうとしたが、鍵が掛かっているらしく、ドアが開かない。
立夏「密室?ドアはここだけしかないんやな。南側のガラスは開かへんのんか。」
平山「開かへん。ただ、あの部屋のドアは内側も外側も同じ鍵を使って開けるねん。今は。ガラスが割れたところから入れるけどな。」
立夏「鍵については、この部屋にはあらへんのやな。」
秋 「立夏、なんでそんなに嬉しそうなん?」
立夏「久しぶりの密室やから。」
秋 「密室やったら何や言うのん?」
立夏「部屋の出入りが自由ではなくなるからや。」
平山「しかし、密室を作る必要がないのでは?」
立夏「いいや。ここで犯人が密室を作る理由は、被害者を逃げ遅れさせるということや。火事でドアが燃えてしまえば、密室だったかどうかわからへんからな。それにこの場合は、密室から逃げ出せる簡単な方法がある。」
平山「それはどんな方法ですか?」
立夏「南側のガラスを割ればええ。硬くても、重い物をぶつければガラスは割れるやろ。では、なぜそうせえへんかったんか。これも簡単や。炎がそちらから燃えて来たからや。でもそうなるまで、何で被害者は気付かんかったんやろ?」
5-2.有馬温泉往復ランニング大会を行う
秋 「昨日で葬儀は終わりましたので、今日はみなさんが大好きな温泉に入りに行きま~す。楽しみましょう。」
下山「あの、どこの温泉に入るのでしょうか。まさかと思いますが....」
秋 「あの全国的に有名な有馬温泉です。電車やったらすぐですし、バスもあるんですが、私たちは魚屋道という人気のハイキングコースですからハイカーの邪魔にならないように軽くランニングで片道2時間ぐらいかけて行きましょう。」
下山「やはり。このコースの標準時間はいくらぐらいですか。」
秋 「ランニングの標準時間は2時間です。ハイキングやと5~6時間ぐらいかな?」
下山「嘘や。」
メグ「あの、距離はどのぐらいあるんでしょうか。」
秋 「距離はだいたい15kmぐらいやと思います。往復ですから30kmですね。」
メグ「高さはどのぐらい登るんですか。」
秋 「行きがだいたい1500m、帰りが1000mぐらいやと思います。山頂近くでは道が凍っているかも知れませんので、気をつけて下さい。もしかしたら樹氷が見れるかも知れません。疲れたら帰りはジョギングでもいいです。」
メグ「苦しそうですね。想像しただけでドキドキです。」
下山「北アルプス級ではないですか。」
秋 「そうですね。北アルプスは標高3000mでも、登山口がかなり高い所にあるのが多いですから、高さ2500mは北アルプス級ですね。でも北アルプスは小屋泊になるのが多いですが、私たちは帰って来れると思います。まあ、下りも往復で2500mあるので何とかなるでしょう。遭難しかかったら、携帯電話がたぶん使えますから。そのうちどうにかなるでしょう。」
メグ「師匠、ジョギングとランニングはどう違うのですか?」
秋 「簡単に言うと息が弾むのがランニングで軽~く散歩の延長で呼吸も乱さず走るのがジョギングですが、メグは体育科やったよな。そんなん知らん訳ないやろ。ということで、スタートしましょう。」
メグ「兄ちゃん、よく帰って来れたな。」
下山「月明りで山道を歩いたのは初めてだ。遭難するかと思った。」
メグ「秋さんは坂道関係なしやな。マラソンで金メダル取るだけのことあるわ。」
下山「俺、体力ないな。恵より遅いんか。」
メグ「私好みの練習やった。」
下山「この変態どM娘が!」
メグ「もっと言うて。」
5-3.密室の開け方は簡単である
立夏「報告によれば、火災は室内のカーテンから発生したとのことや。と言うことは、誰かがカーテンに火をつけて部屋から出て行ったこととなる。当然、鍵は部屋の中にはあらへん。」
秋 「鍵は誰かが持って出たん?」
立夏「誰が?あの燃えた部屋に少なくとも3人の人間がおったことは確かや。家が大きい割に現在住んでいるのは庄之助一人。娘の由香は翌日帰って来る予定。この家におったんは、庄之助と築地と和也は間違いあらへん。」
平山「犯人は最後に家を出た和也や。」
立夏「和也は築地が火をつけたのを知って、追いかけたのかも知れへん。和也は庄之助が自分で避難できると思うた。これでも成り立つやろ。」
秋 「庄之助が居眠りから覚めなかったのはなんでや。」
立夏「知らん。眠かったんちゃうのん?」
平山「睡眠薬を飲まされたんちゃうか。」
立夏「その可能性は薄いやろな。少なくとも3人の人間がいると言うことは、薬を飲ませるところを見られるかも知れへん。あるとすれば共犯やけど、それは難しいやろ。和也と達也の兄弟は仲が良く、達也と付き合ってる由香のお父さんを、和也が殺すとは考えにくいやろ。」
秋 「それやったら、どう考えたらええのん?」
立夏「眠りが深くて火事に気付かへんかった、ということやろな。」
6.解決
6-1.密室で何かをやっている
立夏「まず、秋が見たと言う、ふらふら逃げていく築地と、大声で追いかける和也の2人は、なぜふらふらとか大声とかで走っとったのか。普通では考えにくい。酒に酔っていたら別やけどな。連中は酒を飲んでいたんや。では築地はなぜ和也に『金払え』と言われたんか。大学生の和也が金を貸していたとは思われへん。」
平山「じゃ、その金はなんの金や?」
立夏「築地の弱いものがあるやろ?そう麻雀や。彼らは酒を飲みながら賭け麻雀をしとったんや。」
平山「賭け麻雀は違法やで。」
立夏「それは知っとう。そやけど、一般に賭け麻雀が横行しとることは、知っとうやろ?それを言うたら、未成年の和也が酒を飲むのも違法やろ。」
平山「あいつら、それで黙秘を続けとるんやな。」
秋 「しかし、麻雀は4人でやるもんやろ。酒盛りは何人でもええけど。」
立夏「そうや。その通り。あそこには麻雀のメンバーがもう一人いたんや。それは豊洲や。さて、いつものメンバーで麻雀を始めたんや。いつものメンバーやったんやろ。多分、火事前日の夜からやろな。酒を飲みながら麻雀をして、朝を通り越して昼過ぎまでやってしもた。カーテンが閉まっとって時間を気にしてなかったんやろな。」
平山「そこで13時前に『もう終わろか』となったんですな。」
立夏「ところがそこで思わぬことが起きたんや。一番負けとった築地が逃げ出したんや。一番勝っとった和也は『金払え』と言うて追いかける。」
秋 「そこを私が見たんやな。」
立夏「さて、庄之助は普段はドアに鍵をかけてなかった、と考えるのが一番妥当やと思うねん。住宅地から離れた一軒家やから、誰かが部屋に入られるのを用心する必要がないからや。まあ、外出時と夜ぐらいは鍵を掛けとくんやろなあ。」
平山「そりゃまあ、そうかもな。そないしたら、鍵はどこにあるのんや?」
立夏「一番締め忘れのないところいうたらどこや思う。鍵穴に突っ込んだままやったんと、ちゃうやろか。」
秋 「犯人は鍵を鍵穴から抜いて部屋の外側に出ると、部屋の鍵を掛けたのん?」
6-2.犯人は火の点け方を考える
立夏「この時までは豊洲は殺意がなかったと思う。でも、偶然にも千載一遇のチャンスが巡って来た。密室の室内から出火した火災なら、自分に疑いがかからへんのとちゃうやろか?とりあえず麻雀牌を片付けて4人おった証拠を消した。それで、最後まで人数がわからへんようになってもた。」
平山「確かに失火として処理されるかも知れませんね。」
立夏「しかし自分は火の出るものを持っとらへん。だが、庄之助は揺すっても起きずに眠っとる。今がチャンスやねん。徹夜と酒で死んだように眠っとったんや。火の出るものを捜すが部屋にはそんなものはない。他の部屋から持って来ると、証拠が残るかも知れへん。」
平山「それで、どうしたんですか?」
立夏「屋外からカーテンに火をつけたんや。豊洲が老眼なのは知ってるやろ。豊洲が新聞を読むとき何を使う?」
秋 「虫眼鏡や。」
立夏「虫眼鏡は火を起こせるんや。小学校の時、虫眼鏡で紙を燃やす授業をやったやろ。『収れん』といいレンズや鏡で光と熱を集める作用や。温度は500℃ぐらいになるんや。屋外から焦点をカーテンに当てたらどうなると思う?」
平山「つまり、犯人の豊洲は、庄之助が寝入っているのを確認して、ドアの鍵を外側からかけると、虫眼鏡の収れんでカーテンを燃やし、火事を起こして庄之助を殺した。」
立夏「それが、この事件の真相やと思う。秋が築地と和也を見たのが、豊洲にとっては誤算となってしもた。この二人は火事とは直接関係ないのが、証明されてしまったから。」
6-4.南由香が退院する
診察室に達也・和也・秋・立夏が呼び出された。
北川「南由香さんは現在寛解しており、退院してもかまわないと思います。本人の意向にもよりますが、刺激の少ない生活をさせて下さい。」
立夏「前の家に帰るのが嫌なら、大学前のサマーマンションが今は空いてます。」
達也「有名なマンションですね。入れるんですか。」
立夏「もちろん入れます。どMの上、東大を留年した変態学生もいるぐらいですから。」
秋 「そやけど、刺激の多い生活になるかも知れへんで。」
達也「それまではどうしましょうか?うちの家にいてもらいましょか?」
立夏「和也に取られるかも知れへんで。」
和也「僕はそんなことしませんよ。多分。」
立夏「だいたいやなあ、和也が取り調べで、自分は犯人と違うのに、黙秘権を行使するからおかしなことになったんや」
和也「済みません。未成年者の飲酒や賭け麻雀が、バレるとまずいと思ったもので。」
立夏「築地も似たような理由で黙っとったんやな。」
秋 「南ちゃんですが、冬休みが終わるまで、ここにいるわけにはいきませんか?」
北川「別に構いませんが、本人の意向を伺ってみましょうか?」
立夏「では、1月10日に引越しということで、それまでにめぼしい物を購入しておきましょう。秋、必要な物を挙げておいて下さい。」
秋 「既にリストアップしています。あと。本人確認で購入物と引越しに持って行く物を分けます。」
結局1月10日まで病院にいて、東京へ引っ越すことになった。
6-5.世界遺産のお菊さんと会う
秋と止立夏と南ちゃんは姫路へ出かけることにした。姫路城は世界遺産になったからか入場料が1000円に上がっていた。
立夏「まあ、大した額やないから私が払とくわ。」
そして、薄暗い廊下の隅に3人が集まると、
秋 「世界遺産のお菊さん、約束通り来たで。」
南 「こんなんで、ほんまにお菊さんが来るのん?」
立夏「秋の霊力を信じなあかん。世界遺産のお菊さんを召喚するで。最初は霧みたいにしか見えへんから、秋と手を繋いだらはっきり見えるで。」
秋 「お菊さん、今日は時間があるん?」
お菊「次に働くまで1時間ほどあるで。」
南 「わあ、ほ、ほんとに、出、出て来た。南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏。」
秋 「南ちゃん。恐くないから。お菊さん、おろおろしとるやん。」
お菊「恐がらんといて南ちゃん。姫路名物の話をするから。」
立夏「姫路おでんの話でもするのん?南ちゃん神戸におったから知っとうと思うで。」
お菊「そら困ったな。あっ、そろそろ仕事の時間や、また来てな。話考えとくさかいに。」
南 「仕事って何?」
お菊「『1枚足りない』 をやらないかん。」
立夏「お菊。逃げよったな。」
南 「久しぶりの面白い話やった。恐いのは最初だけやった。」
6-6.下山はカムバックの試合を行う
春の全国大会が始まった。大会の話題は下山のカムバックである。下山は絞られて見た目はぐっと痩せたが、体重は相変わらずの100kgである。つまり贅肉が取れて筋肉がついているのだ。
下山「いよいよ、私の試合かと思うと緊張します。」
秋 「代わりに私が出たろか?」
下山「私も相手も笑いものになります。」
解説「今回の話題は、かつて最強と言われた下山選手の、カムバックでしょう。下山選手は、なぜ突然カムバックして来たのでしょうか。西塔さんご存じですか?」
西塔「知らん。別に下山は親友でもないし、個人の事情までは知らん。」
解説「下山選手は以前に比べて痩せたと思いますが、どうしたんでしょうか。」
西塔「知らん。ダイエットでもしたのだろう。」
解説「下山選手に指示しているのは西園寺選手のようです。どう思いますか?」
西塔「結構美少女なので羨ましい。」
解説「西園寺選手はこの大会に出ていませんでしたね。」
西塔「そうですね。」
解説「西園寺選手は調子が悪かったのでしょうか。」
西塔「知らん。そうと違うか。」
解説「女子で優勝した妹の下山恵選手も応援しています。」
西塔「妹の応援で勝てるのだったらいいけどね。」
解説「西塔さん、今日は機嫌が悪いんですか?」
西塔「カムバックできる下山選手に嫉妬しているだけです。」
メグ「お兄ちゃん、私も応援してるよ。」
立夏「広報部長の席は空けとくから登って来い。」
秋 「今日勝てば、メグと同じ会社に就職やで。準備万全や。必ず、立夏のところに、送り込んだるで。」
下山「はい、がんばります。」
秋 「がんばったらあかん。練習の通りに落ち着いてやることや。それが最強になる条件や。」
下山「分かりました。師匠。がんばりません。」
秋 「試合見たな。下山、お前より強い選手はいたか?」
下山「いえ、いません。トコちゃんさんより強い人もいません。恵と5分に戦かえるのは何人かいると思います。」
秋 「だったら下山。お前は既に最強だ。勝って私たちの世界に来い。」
下山「はい!」
下山は秋に一礼して畳へと進んで行った。