1.行くんだ!北の山へ!
1-1.シュレーディンガーの猫は私を呼ばない
私の大学の同じクラスに、秋山優香『ユッビー』と立川夏花『ナッピー』という変人コンビがいます。今日はこんなことを言っていました。
「なあ、『ユッビー』、『シュレーディンガーの猫ちゃん』いうの知ってる?」
「いいや知らん。だけどあんまり可愛くない猫ちゃんのような気がする。」
「まあ、可愛いかどうかは別として、その猫の生死にかかわる話なんだけど?」
なんて訳の分からない話をしていました。
※※『シュレーディンガーの猫』
量子力学の思考実験の一つ。密閉した箱の中に猫を入れ、1時間の間に50%が原子崩壊する放射性物質を入れる。もし1時間以内に原子崩壊した場合は毒ガスが出て猫は死ぬ。原子崩壊していない場合は猫は生きている。さて、蓋を開ける前の猫の生死はどうなっているか?数多くの説がある。
文学部のロビーの片隅で私たちはいつものように雑談をしています。
私は貧乏ですが、『ナッピー』の実家は金持ちらしいのです。
「お金貸して」
と言ったら、10万円ぐらいポンと貸してくれそうです。もっとも、そんなに借りても返せません。
「10万円くれ。」
と言ったらくれるのかも知れませんが、それもちょっと情けない気がします。私の家はそれなりに貧乏なのです。
「『ナッピー』、私夢を見たんや。」
「なぜ、関西弁に?」
『ユッビー』は霊感体質らしいのです。時々『外れキング』という生声が、夢の中に現れてお宝のありかを告げるのですが、これが競馬よりも当たらないということです。
※『生声』は遠くにいる人の言葉を伝える妖怪で、実体はありません。
「ああ、『外れキング』。財宝だと言うから、探しに行けばゴミの山や犬の死骸なんだもの。犬の死骸の時は、白骨死体が出たのかと思ったわ。」
「お宝はどこ?私は誰?」
彼女らの話にはついていけません。なにが言いたいのかさっぱり分りませんが、それは時として私に向けられた問いなのです。そう、なぜか私は彼女らの友達に認定されています。
1-2.変人の仲間はやはり変人である
『ナッピー』が言いました。
「今回はヤツのお告げで、ゴールデンウイーク後の観光客が減った時期を狙って、七甲田から九和田湖に行きます。」
さらに、
「今回は行く人を厳選したいと思います。私と『ユッビー』、『アヤシ』と『ビビッチ』と『フェー』の5人で行くとくじ引きで決まりました。」
「それだけしか友達がいないやないか。しかもくじ引きは全部当たりだったやんか。」
「なぜ?関西弁に?」
ここでちょいと説明しておくと、『青海愛子』は皇室を意識して『愛子様』と呼んでいましたが、仙台の近くに愛子を『アヤシ』と読む地名があるのを見つけて、『アヤシ』に変更となりました。
「『怪し』い人みたいで何かちょっとイヤね。」
と本人は言っています。
『ビビッチ』は本名は『羽島美和』だが、怖がりですぐに誰かにすがりつくので,
関西の『ビビリ』から『ビビッチ』と言われています。
「『ビビッチ』ダキツクノ イヤラシ イワ」
「できるだけ、すがりつかないよう、努力します。」
『フェー』は北欧からの留学生で、本名は『フェアリー・アンデション』といいます。アンデションは北欧によくある姓らしいです。
「ドコ ツレテイカレル デス カ? ユウカイ? ユカイ」
『フェー』は日本語はまだまだ片言ですが、たぶん英語は上手です。本当は、上手か下手なのかよく分かりません。英語なんて知らないかも。だって私たち、国文科なんだもん。
「誘拐の訳がないでしょう」
『私』が応えました。
そしてなぜか私たち全員、変人の仲間と思われています。
1-3.クララが走っている!
「私、飽きてきた。いつも肩透かしされるもん。」
『ナッピー』が言いました。
「何が『されるもん』なの。元々は『ユッビー』の頭から、出てきたんでしょ。」
アヤシが言いました。
「今度は七甲田の近くの牧場の中の小屋らしいんだけど、『ナッピー』どう思う?」
『ビビッチ』が訊きました。
その言葉を受けて『ナッピー』が返答しました。
「まず『の』が多い。次に七甲田に行ったことはあるが、牧場なんか地平線まであって、アルプスの少女が羊を追いかけてるし、クララは一緒になって走ってる、ご両親は涙を流して『クララが走っている』と言っている。そんなところ。」
続けて『私』が言いました。
「掘っ建て小屋なんかどこにでもある。野原を歩くのにいい季節でも、小屋を捜すのに何日かかるかわからん。初める前から、外れのような気がする。」
『ユッビー』が言いました。
「二度あることは三度ある。」
また、外れるのか。『ナッピー』が言います。
「外れを覚悟しなさいということか?それとも変なものが出てくるとでも?」
「外れを覚悟しなさいということか?それとも変なものが出てくるとでも?」
『ユッビー』が言いました。
この二人はいつも漫才みたいです。『私』は少し笑いました。
1-4.箸が転んでも笑う年頃なのである
「よっしゃ。では次の休みに七甲田へ牧場の小屋を捜しに行こう!」
『ナッピー』が言いました。思い立ったらすぐ動く性格なのです。
「次の休みいうたら明日じゃないか。」
と『ユッピー』が言いました。至極当然な意見だと思います。
「地図を見たら牧場ぐらいわかるんじゃ?」
『ビビッチ』が言いました。彼女らはどこか抜けたところがあるなあ。
「偉い。そうかも知れん。」
しかし、地図を見るとどこもかしこも牧場に見えます。一面に草地のマークがあるだけでした。小屋らしいものはあちこちにあります。それにしても温泉の多いところです。1回は入りたいと私は思いました。
『アヤシ』が言いました。
「私、思い出したんですけど、確か『七甲田ケーブル』とかいうのがありましたね。山頂まで登りましょう。」
『私』が言いました。
「おいおい、何しに来たんだっけ?」
『ナッピー』が言いました
「あのケーブルカー、去年スキー場と一緒に廃止したらしいよ。」
『ユッピー』が言いました。
「九和田湖の遊覧船で許すわ。」
『私』の言葉に他の4人も笑いました。
箸が転んでも笑う年頃なんです。
1-5.二人の貧乏人と一人の金持ち
「私、青森まで行く旅費がない。」
と『アヤシ』と『ビビッチ』が言いましたが、そんなことで許してくれる彼女らではありません。
「心配ない。全員の交通費からお土産代まで、『ナッピー』が出してくれる。」
『ユッビー』が無責任なことを言っています。『ナッピー』は、
「まあ、それぐらいだったら、こないだ売り出した『SD如来フィギュア』の儲けでどうにかなる。」
「『SD如来フィギュア』は『ナッピー』の会社が作ってたのか?」
「うちの『おもちゃのナッピー』で作ってる。会社も商品も冗談のつもりだったんだけど、これがまた、子供が如来を全部集めるのと、如来の名前を覚えるのが流行って。中には実物の如来巡りが流行ったり、ついでに四国八十八ヵ所めぐりも流行して、思いのほか売れたんです。特別ボーナス出そうかな。」
「そんなことしたら儲からないんじゃない?」
と『アヤシ』が言います。
「有意義な使い方をすれば、ちゃんと返ってくる。おかげで『おもちゃのナッピー』はちゃんと黒字経営してる。」
「『SD如来フィギュア』って有意義な使い方なんですか?」
『私』が聞きました。
「モチのロン。私も持ってる。」
『ユッピー』が言った。
1-6.はやぶさ7号は発車する
東京駅までの乗車券は自費だが、誰も文句は言いません。そりゃそうです。東北新幹線にただで乗れるのですから。私たちは8:20発のはやぶさ7号に乗ることになっています。
「8:00集合の、はやぶさ7号で。うちらはうちらは、どこかへ、旅立ちます。」
『ユッビー』が歌っています。
「私らの生まれるずっと前の歌で「なんとか2号」という。「あずま2号」だったかな。ところで『ユッビー』はどこへ旅立つのか知ってるの?」
※「あずさ2号」『狩人』の替え歌です。
「知らん。七甲田という駅があれば、多分そこで降りるんだろう。あとは『ナッピー』まかせだな。」
『ナッピー』はあきれ顔で『ユッビー』を睨みました。
「とりあえず先頭車両の一番前の6席を、予約できたから、そこへ座ってな。」
「これは、グランなんとかという、1列車に10何席しかない特別席じゃない。」
※グランクラスです。かなり高価だが一度は乗ってみたいですね。
1-7.恐山北斗が来る
「私、こんな席に座ったことがない。もっともグリーン車にも乗ったことないけど。でも、なぜに6席?私たち5人しかいないのに。」
『私』が訊ねました。
『ナッピー』答えました。
「警察の人がついて来てくれるんだ。警察庁のこの人です。さあ、読めるかな?」
『ナッピー』は紙に『恐山北斗』と書きました。
「ソノ ナマエ ナント ヨムノ デスカ?」
「さあ、あててみよう。『ユッピー』は知ってるよね。」
「コワイ ヤマ キタ ワカラナイ?」
「姓はオソレザンだけど、名はホクトじゃないんだね。」
『ビビッチ』が答えました。
「鋭いところをついてる。オソレザン ケンシロウが正解。」
「オソレザン ケン シロウ?」
「『ホクト』の方がかっこい。」
と『アヤシ』が笑う。
「『北斗の県』みたいだ。」
と『私』が言った。
「ホクト ノ ケン?」
※「北斗の県」:北海道の北半分が『北斗県』になる話です。
どっと笑いが起きたところに、ケンシロウがやって来ました。
「優しくて男前、上級国家公務員試験を一発合格、現在警視、年収780万円のお買い得物件だが、名前のせいで振られたこと限りなし。名前が恐いらしい。」
『アヤシ』が言います。
「私もちょっと『恐山』という姓は、あ、いえ、決してイヤというわけではないんですけど、それも愛があってこその話で......あ、ごめんなさい。」
「僕はかなり傷ついたんですが......」
北斗が言った。
「おつきあいしても、多分、両親が恐がって、結婚までは許してくれないかと.....そうだ、養子に入ればいいのよ。それも愛があってこその話で......あ、またごめんなさい。.」
『アヤシ』が言った。
列車は知らない間に発車していました。揺れを感じさせない運転技術は、さすがJRと言わなければなりません。
「オオ ニホンノ シンカンセン シズカデ ハヤイ?ヤバイ?」
グランなんとかは、おしぼりはもちろん、ジュースや酒が飲み放題、弁当も食べ放題です。『ユッビー』は20歳なので28歳のケンシロウ相手に酒を飲んでいます。そのうち『ユッビー』は酔っぱらって寝てしまいました。
※『ユッピー』は20歳と言っているが、実はまだ19歳です。
2.行くんだ!雪の山へ!
2-1.新青森で雪山を見る
東北新幹線は北に向かって走り、やがて「新青森」に着きました。『ユッビー』が
「七甲田駅と違う」
と言っていましたが、どうせ酔っ払いの戯言、ケンシロウがとにかくもホームへ担ぎ出しました。もっともケンシロウも千鳥足でしたが。
「what's チドリアシ」
『フェー』が尋ねました。
「英語はちょっと」
と『私』が言いました。
「it's staggerd foot かな?stepsかな?」
とりあえず、『ナッピー』が答えました。
「すごい。『ナッピー』英語しゃべれるんだ!」
『アヤシ』が感心して言います。
「こんなのしゃべれる内に入らないけど。それでよく、W大学に入れたな。」
『ナッピー』が言いました。
「なんとかして降ろさんとね。次の停車駅は北海道だから。」
ケンシロウはそう言いましたが、誰もその言葉を聞いていませんでした。
私たちは山を見ていました。
「『ナッピー』、山はまだ雪が積もってるよ。」
『ビビッチ』が言いました。
「ここで、早くもこんな罠があるのか!何かあるとは思うとったけど、新青森に着いて早々やられるとは。ヤツを信じたのが甘かった。『ユッピー』どうしてくれる。『ユッピー』。おい『ユッピー』。あかん酔っ払って寝てる。」
『ナッピー』が言っています。
「『ナッピー』、バスがまだ運休中ですよ。」
私が言うと、え~とみんなの声が上がりました。
「せっかく青森まで来たのに、」
「一層のこと函館まで行って函館観光というのはどうですか。」
アホなことを言っているのは『ユッピー』です。『ユッピー』は目は覚めたようですが、頭の中はアルコールで一杯の状態のようです。ここに来た目的は何だったかな?
「大丈夫。うちの者が迎えに来ることになっているから。」
『北斗』がそう言てすぐに、駅前に10人乗りのワゴン車が停まりました。そして、ケンシロウより男前が2人降りてきました。
2-2.ここにも3兄弟がいる
「なんや、サクラじゃないか。するとクラゲも来てるのかな。サクラ、うちの友達に手を出したらダメだよ。」
クラゲやサクラなど段々人とも思えない名前の人が増えていきます。
「彼らを紹介するよ。
長男が、恐山北斗(ケンシロウ:ホクトでもいいよ)、28歳、東京大学卒、警視庁警視。給料780万円ぐらい。
次男は、恐山海月(ミツキ:クラゲでもいいよ)、25歳、東北大学卒、警視庁警部。柔道4段・オリンピック候補。給料700万円ぐらい。
三男は、恐山紅葉、(サクラ:モミジでもいいよ)、23歳、慶応大学卒、警視庁警部。射撃日本代表。給料670万円ぐらい。」
「そうか、これが『ナッピー』の話に時々出てくる、恐山3兄弟ですか。なかなかすごい経歴ですね。3人とも日本でトップクラスの秀才じゃないですか。」
酔っ払いが言いました。
「サクラさん、射撃の日本代表ってすごいですね。」
と『ビビッチ』が言うと、
「射撃がしたくて警視庁に入ったんですよ。」
まあ、そんな人がいてもいいか。
「ところで、『ナッピー』、今からどこに行けばいい?」
クラゲが尋ねた。
「最初は、そう、高倉平に行ってみよう。」
「しかし、あの二人、酒臭いな。」
「2~3時間飲みっぱなしだったからな。一番後ろの席に放り込んで、窓でも開けとくか。」
道路は全く雪が積っていません。
「今日に限って土建屋さんが、朝の4時から除雪をしてくれたらしい。」
「そんなの、どこで聞いてきたんですか?」
「ちょっと青森県警から。」
2-3.遭難事故の銅像から見る景色は雪に埋もれている
どこかの土建屋のおかげで、私たちはすいすいと高倉平に辿り着きました。『ナッピー』が『ユッピー』を車から引きずり降ろして、雪を顔に塗りたぐっていました。
「おらっ、目を覚まさんかい。」
私が
「雪って結構ばい菌が多いらしいよ。」
と、言いましたが、『ナッピー』は
「ふ~ん、そう。知らなかったわ。」
と言いながら『ユッピー』の顔を、雪でゴシゴシ洗い続けていました。『ユッピー』はようやく目覚めたようで、
「こらっ『ナッピー』、おんどれ、何しくさるんじゃ。」
「まあまあ、やっと目が覚めたのか。化粧が落ちてしまったか?」
「私は、昔から化粧はしたことがない。」
ここは、昔、日本軍の大遭難事故のあった場所で、被災した大尉の銅像が立っています。銅像から見渡す所は遥か地平線まで続く平らな高原です。真ん中に道路が走っていますが、その左右はまだ雪に埋もれた牧場になっているようです。
「牧場だったらここかなと思うんだけど、雪が深いから無理だな。」
無理というほどでもないと思いますが、『ナッピー』は小屋を捜す気がなくなったようです。
『ビビッチ』はこんなに広い牧場を、見たことがないようです。
本音を言えば、『私』は宝探しより観光旅行の方がいいのですよ。
「確か、あのあたりの森の中に温泉があったような気がしますわ。」
『アヤシ』が言いました。
「あの温泉は3年前に廃止になった。『アヤシ』、行きたかったの?確かあそこは男女混浴の露天風呂だけだったような気がするんだけど。そう言えば最近近くに新しい温泉施設ができたらしいよ。『アヤシ』入っていく?」
「今日は遠慮しておきますわ。」
2-4.誰も女湯を覗かない
私たちは、九和田湖方面に向かいました。
九和田湖に向かって進むとすぐに地主鶴温泉があります。
「ここの温泉は地主がこっそりと湯に浸かっとるのを鶴が見つけたのが語源で、地主温泉と言うらしいんです。一説には地主が鶴のかぶりものをしてたとか、鶴が地主に化けてたとか、いろんな話もあるんです。」
地主温泉はちょっと古い木造の建物ですが、中は近代的です。宿泊棟の他に温泉棟があって、温泉棟の入浴料は1000円でした。『ナッピー』が全員の入浴料8000円を払いました。もちろん警察の分も。警察の3人は入浴料を出そうとしてごそごそ財布を捜していましたが、『ナッピー』が払ったと聞いて、遅れながら着いていきました。
温泉棟の入り口は男女に分かれているので、
「じゃあ、また後で」
と後ろを向いて言うと、女湯の方に入っていきました。
湯舟はヒノキ風呂らしいですが、私はヒノキと他の木の区別はつきません。湯は足元からポコポコ湧いています。屋内にいるのに自然の露天風呂の雰囲気です。大きな窓があり七甲田の自然を見ることができます。
木に登れば外から女風呂が覗き放題かと思いますが、今日は警官が3人もいるから覗けないでしょう。
「ダレモ ノゾキニ キマセン デシタ ネ」
「覗かれんかったら、それはそれで、少し寂しい気がするなあ。」
温泉の中ではあまり言葉は交わしませんでしたが、ロビーではいろいろな事件の話を聞くことができました。
地主温泉から少し歩いたところに、「睡蓮湖」という池?があります。昔、外国の有名画家が「SUIREN」という作品を200枚ほど描いた場所として知られています。と言っても別に何があるわけではありません。ただの沼です。ところで、湖と池と沼とはどう違うんだろう。道路沿いに睡蓮の絵を1枚100円で売っている無人販売所がありました。
「誰か、買う人がいるのかなあ?」
『ビビッチ』が独り言を言いましたが、みんな同じ思いだったらしく、返答はありませんでした。
2-5.地獄では地蔵菩薩が守ってくれる
それから10分ばかり走ると、地獄温泉に着きました。ここは熱い湯が有名だが、ちゃんとぬるい湯も用意している良心的な温泉です。料金は600円と良心的ですが、今日は利用しません。
すぐ近くに賽の河原と地獄沼があります。見学は無料です。地獄沼はぐつぐつと沸騰している沼です。もちろん生き物は住めません。支流から降りてきた魚は、沼で茹でられ、適度に火が通ると網ですくわれ、温泉卵を添えて、地獄沼の名物料理になります。なんでも、温泉の成分が魚に染みて、健康にいいと言われていますが?おいしいかどうかは疑問です。
賽の河原は、地獄沼に流れ込む灼熱の小川(沸騰川と読んでいる)周辺の、草のほとんど生えていない荒地です。そこに石を積んだ塔が無数に立っていて、風車やお菓子が備えられています。そして、決まったようにお地蔵さまが立っています。『ユッチー』は、
「今すぐにでもアレが出そう。幽霊を見んで済むように目を瞑って歩くわ。」
と言っていました。
「池にはまったら茹で上がるよ。」
と『ナッピー』が言いました。
「お地蔵尊がいるから大丈夫。」
と『ビビッチ』が言っていました。
※水子の供養と癒しは地蔵菩薩の仕事です。
3.行くんだ!立川別荘へ!
3-1.別荘は温泉街の反対側にある
さらに進むと津田温泉があります。ここはとある文学者が愛用していたという歴史ある温泉なのでその人に倣って、ここを好んで利用いた作家も多いようです。私たちは文学者でも作家ではないので今回は通過しました。
津田温泉から長い坂を下ると、九和田温泉街がありますが、この手前を右に曲がると奥瀬渓谷に入る道になります。
奥瀬渓谷は道路沿いにある有名な渓谷なのですが、冬場はタイヤが氷の張った道で滑って渓谷に落ちる車が出ます。私達は落ちるのが嫌なので、渓谷の手前を右に曲がり、九和田湖の突き当りを右に曲がり、『立川』の表札?看板?を右に曲がると、山の中腹にある『ナッピー』の別荘に着きました。
九和田湖温泉街の反対側になる寂しいところですが、車で15分ほど行けば九和田温泉街です。別荘を持っているからやっばり相当な金持ちだと思います。別荘には4人部屋が6つ、2人部屋が3つあって、4人部屋を男性が1部屋、女性が2部屋使うことにしました。男性はちょっと不満顔をしていました。
3-2.突然怪しい客が来る
ここは当然自炊を行います。今は出張シェフというのもあるらしいのですが、九和田にはないようです。しかし、3兄弟は料理が得意らしく、青森で買っておいた食材でなにかおいしそうに見えるものを作ると言っています。
3兄弟が料理している間に、私はまた温泉に入ることにしました。
ここも温泉で自噴しているらしいですが、湯の温度が高いので水道水を混ぜて入りやすい温度にしています。今度は一人で入っているのでゆっくり温まることにしましょう。
その後食事をして、みんなで雑談を始めました。
夜の9時頃、戸を叩く音が聞こえました。『クラゲ』が入口の戸を開けると、男女2人が立っていました。
「すみません。雪で滑って木にぶつかり、車が故障して動かなくなってしまいまして。」
「すみません。雪で滑って木にぶつかり、車が故障して動かなくなってしまいまして。」
男が言いました。
「はあ、そうですか。それは災難ですね。では。」
と『クラゲ』が言い、戸を閉めようとするので。
「クラゲ、冷たいのと違うか。」
と『ナッピー』に言われました。
3-3.宝探しは忘れ去られる
「こちらは佐倉陽太郎、私は館山雪と言います。ドライブ中に事故を起こし、この下のT字路のところで、車が動かなくなってしまいました。」
「それは先ほど聞きました。」
『クラゲ』は海水のように冷たい。
「車を押してこの脇道に停めさせてもらっています。まわりに明かりがないので心細くなってしまいましたが、上に明かりが見えたので、明かりを頼りにここまで来たんです。」
女の方が言いました。どうやら男より落ち着いているようです。
「それで、一晩止めて欲しいと?」
「簡単に言えばそういうことです。」
『ナッピー』が、
「かわいそうだから泊めてあげる。夕食は残り物で我慢して。温泉はいつ入ってもいいから。」
と言いました。そこで2人は別々の1人部屋へ案内してもらった後、1階に降りて来て残り物を夕食として食べ、温泉へ入りました。
まあ、食べ物があって、温泉があって、寝るところがあれば、特に不満はないでしょう。陽太郎は温泉から出て10分ほど雑談に加わったのですが、雪が温泉から出てきたときに、一緒に自分の部屋へ上がって行きました。やはり居心地が悪いのでしょうか。陽太郎と雪が部屋へ上がって行ったのは10時半ごろでした。ビビッチに振られて、殺人の方法につていて話していました。
「ナイフの刃が上を向いてたら殺意あり、下を向いてたら殺意なしになるらしい。また、心臓の位置は乳首の下側やから。結構知らん人が多みたいですよ。」
しかし、この話題は興味があまりないようで、警察官たちは聞き流していた。私たちは明日どこへ行こうかという話になりました。宝探しは忘れ去られてしまい、2度と思い出されることはありませんでした。
3-4.九和田ローカルテレビは不思議なテレビである
そうこうしている内に九和田ローカルテレビでニュースが始まりました。超ローカルなテレビ局だな、なにせ自ら『ローカルテレビ』と言っているもんなと思いながら、画面を見ていました。
「次のニュースです。今日午後2時頃、盛岡の『ワンコイン』失礼『ワンコモリ銀行』に、覆面をした男女2名が押し入り、ロウソクとムチで行員を脅し、現金3000万円を奪って逃走しました。覆面をしてるのになぜ男女がわかったかって?今放送中だから後にしてくれ。」
「犯人の男女は、カッコいいスポーツカーで逃走し、パトカーに車をぶつけて田んぼに落とすと、北の方へ逃げました。盛岡より北に住まれている方はご注意下さい。何?どのように注意すればいいかって?例えば、集落に入る一本道を塞いでしまうとか、待ち伏せして戦うとか、腕の立つ助っ人を頼むとか、何か自分たちで考えてくれ。これでニュースを終わります。そうだよ、もう、終わるんだよ。」
「まさかアレ違うよな。」
「さあ、こんなところにくるのかなぁ。」
「なんか盗賊団が村を襲うように聞こえるが?」
「確かに人気の出そうな番組だな。こんなおもしろいニュース番組初めて見たよ。」
それでも、23時過ぎには解散して、各自部屋へ帰って行きました。
4.行くんだ!夜の向こうへ!
4-1.突然の宿泊者は夜這いする
真夜中の2時を過ぎた頃、『私』は戸をノックする音を聞きました。『私』の部屋ではなく隣の陽太郎の部屋のようです。静かな場所にあるため、特に響いて聞こえる気がします。同じ部屋で寝ている3人は誰も気づいていません。
『私』は廊下に出て雪の部屋を開けようとしましたら、鍵はかかっていませんでしたので、さっと入り込むことができました。
部屋には誰もいないところから見て、隣の陽太郎の部屋に行ったのは雪に間違いないと思いました。陽太郎の部屋から小さく話し声が聞こえてきます。泣き声も聞こえています。何か深刻な話でもしているのでしょうか。
「夜這いじゃないか?いやがらせで注意しようかな。」
当然、戸には鍵が掛かっていました。なんだか自分がつまらない人間のように思えてきましたので、関わるのは止めようと思いました。
「やっぱりアホらしい。あんな奴ら放っておこう。もう一度寝よう。」
しかし、その時私はあの言葉を聞いてしまいました。
「まだ大丈夫、逃げれ切れるよ」
「1500万円でどこまで行けると言うの?」
少なくとも男女がベッドでする話じゃありません。
警視に言ったほうがいいかなと、寝ながら悩んだ私だったが、話し声が聞こえなくなったので、朝まで眠れませんでした。
4-2.密室はインチキで作られる
朝6時頃に目を覚ました私は、隣の部屋に入ろうとしてみたが、鍵が掛かっていました。まあ、当たり前です。昨日の話が気になった私は、次に来た『ナッピー』に、二人が自殺している可能性があると言いました。そして
「合鍵をもってきて。」
と言いました。『ナッピー』は階段を駆け下りて、合鍵を持ってきました。その時には、全員が陽太郎の部屋の前に集まっていました。
戸を開けると、私は一番に部屋へ飛び込みました。
ふたりの左胸に果物ナイフが突き刺さっていました。
「大変だ!二人とも殺されている!」
炊事場には果物ナイフがあると思います。そのナイフを使って心中したものと思われました。後から入って来た人に私は押しのけられました。まあ警察官が3人もいるんだから初動捜査は完璧でしょう。その時、私は椅子の上に鍵があることを見つけました。
5.行くんだ!犯罪トリックを乗り越えて!
5-1.お菊は幽霊である
5-1.お菊は幽霊である
「それで、私にどないしろと?」
文章を読み終えた立夏が言った。
「これは実際起こった事件です。どう思われます?」
「スカイ警視さん、もうちょっと考えてからにせえへん。」
「立夏、何か教えたりいな。」
秋が言った。
「それじゃ、秋の部屋にひとりで1時間おれたら、いろいろ教えたるわ。」
秋が「お菊、部屋」と呼ぶ。
「一体、何を呼んどるねん。」
と立夏が秋に訊いた。
スカイの悲鳴がひっきりなしに聞こえてくる。
「あわ、あひ、出た出た出た。本物が出た。」
「何人にも分裂して増えていく。」
「あわ、あわ。囲まんでくれ。いやや。いやや。」
「どっちに向いても幽霊や。」
「関西弁になったな。よっぽど怖いんやろなあ。」
「私の部屋、そんなに怖いとことちゃうで。」
「幽霊が出るんやろ。スカイの声、聞いたらよくわかるわ。」
立夏が言った。
「うん、出る。それがどないしたん。疲れたら冷たい手であんましてくれるし、お茶は入れてくれるし、毎日掃除してくれるし、ガスの元栓閉め忘れても閉めといてくれるし、雨が降ってきたら洗濯物を部屋に入れといてくれるし、ありがとうと言うたら、恥ずかしそうににっこりするねん。犬や猫よりよっぽどかわいいし、役に立つで。」
1時間ほど経って、スカイが真っ青な顏で部屋から出てきた。
「遊園地のお化け屋敷なんかちょろいもんだ。心臓が止まるか思ったわ。」
「二人に紹介しとくわ。うちの使い魔の『お菊』や。」
バタンとスカイが泡を吹きながら倒れた。
「お菊です。出身は姫路。秋さんとうちと、どっちがこの部屋の主人か対決したら、ボロクソにやられまくって、うちは使い魔として置いてもらえることになりましてん。今まで負けたことなかったのんに、逃げる暇もなく締め技で気が付いたら3回も落とされたんですわ。柔術で勝てる思てた、消えたろと思った途端に、はっと気が付き落とされとったんがわかるんです。その後はぐったりした私は、見たことない柔術の練習台にされて....うちが甘かったんですわ。あんなん勝てませんわ。」
「うちはこのマンションのオーナーや。もしかして、今まで入居者が1週間で逃げよったんは、お前のせいか!」
「たぶん。今の警視さんのような顔色してましたから。」
「群青色ちゅうのん。警視は人間の顔色やないで。」
「スカイが死んだら、ややこしいから、部屋に戻ろか。」
秋はお菊と一緒に部屋へ戻って行った。
5-2.それで、私にどないしろと?
「それで、私にどないしろと?」
だから、秋がいなくなったらすぐにスカイの口調が変わった。
「これはある人が書いた資料です。この資料を読んで何が起こったのかを、教えていただきたいのです。姫様」
立夏は先日の九条本家引継ぎの会で、満場一致で次期総統にされてしまった。長男の和彦も立夏を推すのだから、やらねばならない。本当は一生遊んで暮らすお金があるのだから、一生遊んで暮らしたかった。総統に指名されて以降、立夏は『姫様』と呼ばれている。九条一族でない人がいるときは『姫様』とは言わないが。
ついでにスカイは警視だが、警察庁公安部の警視である。元来は公安部長になるところ、警視のままで九条の警護が仕事である。立夏はスカイの給与が800万円と言っているが、実際は1,000万円を超える。
立夏はその資料を読み直した。
「これがどないしたん?犯人はわかっとうし、トリックも動機もわかっとう。誰が書いたのかもわかるやん。いったい何が知りたいのん?」
「この事件は、殺人ですか?それとも自殺?」
「スカイ、やらしい質問やな。殺人でも自殺でもない、殺意があるから殺人未遂や。」
「では犯人は誰ですか?」
「『私』やな。」
「どんなトリックを使ったんですか?」
「叙述トリックと簡単な密室トリックや。」
「これは密室内でお互いに果物ナイフで刺し合って心中となる予定やった。」
「叙述トリックから行こか。」
「この旅行は、ナッピー、ユッピー、ビビッチ、アヤシ、フェーの5人で行くと最初に書いとるやん。なのに話の中には私が出てきて1人増えとる。他の5人 は会話をしとるやろ。だからビビッチも同じように会話をしていたはずや。ところが、『私』と『ビビッチ』の間で会話が交わされていない。わざと自分を隠しているやんか。ここで、『私』=ビビッチが疑われるわけや。」
「よく、読んでみたらかるけど、『私』は男や。『ですます調』の文章で暗に女の印象を作っているけどな。」
「そんなはずはない。ビビッチの本名は『美和(ミワ)』と最初に書いてる。」
「あれは、『ミワ』やのうて『ヨシカズ』と読むんやないかと思うねん。一番わかるのが、泊まる部屋やな。自分以外に3人いるとつい書いてもたんやろな。女性は2部屋やけど、ビビッチが女性としても一部屋に4人というのはあまりに不自然やろ。男女4人ずつで女性だけ2部屋使うとなると男性には不満顔も出るわな。男性3人女性5人なら女性が2部屋使っても不満は出ないやろ。
すると『私』以外の3人は恐山3兄弟や。残る一人が『私』=ビビッチになる。従って、『私』=ビビッチ=男という式が出来上がるんやな。」
「ここで、考えて欲しいのが、9時に来た2人は例の銀行強盗だということや。九和田湖を通り抜けるなら、九和田繁華街を通った方が早い。あの二人は距離の長い上り下りの多い分かりにくい、立川の別荘を目指したことになる。ここで犯人たちが合流する予定やったんとちゃうやろか。携帯電話ででも連絡を取っとったんやろな。銀行強盗を行った第三の犯人は『私』や。かなり電話をしとった思うけど、それは延べられとらんな。」
「しかし『私』はここでおもわぬ言葉を聞く。」
『ひとり1500万円で逃げる。』
「3000万円を盗んだのに一人1500万円とは、自分を殺す計画だと気づく。この話は二人で銀行強盗を行ったように見せかけるためのもののはずやった。ところが、実際に『私』は聞いてしまった。まあ、考えることは誰もそないに変わらんと言うこっちゃな。」
5-3.密室は必要ない
「しかし元々『私』は仲間を殺し、金を独り占めして銀行強盗が自殺したように見せかけたかった。そのためにこの資料を作ったんやろな。これをぼんやり見ると、女の犯人が犯罪を犯したように見える。」
「部屋に入るのは簡単や。ノックしたら入れてくれる。しかも殺したろと思とう相手が部屋に入って来るんやから、『飛んで火に入る夏の虫』とはこのことや。動きはビビッチの方が早かったんやろね。殺したと思った後、外側から鍵をかけたんや。緊急の場合やから、内側から鍵をかけて部屋から出る方法が見つからへん。これが大きな間違いやった。」
「どこがいかんのですか?」
「『私』は密室を作る。鍵をどうしょっか、と考えたんやろ。頭が密室の構成に行ってしまってるやんか。よく考えてん。自殺するのに密室は必要ない。『誰も入れないから自殺』とは考えないやろ。まして真夜中なら誰かが入ってくる可能性が低い。実際は密室でなくても、自殺、殺人、事故、病気なんでもあるやん。」
「そりゃそうですが、じゃあ姫様ならどうするんですか?」
「鍵をかけずに、容疑者の範囲を広げる。捜査を攪乱してほぼ全員を容疑者にしてしまうねん。どうせ真夜中のアリバイなんかある方がおかしいやろ。そして、捜査を混乱させて迷宮入りを狙うかなあ。それから絶対にナイフなんか使わへん。ナイフを使うんやったら頸動脈の切断を狙うしかないやろなあ。」
「姫様ならどうやって殺しますか?」
「事故に見せかけるかなあ。」
「例えば、あたまを殴って殺す。その後、タンスなど重たい物を頭の上に落とす。階段の上から落とす。窓や屋上から落とす。などやろか。まず最初は頭を潰すやろな。『害虫は頭を潰せ』の格言通りに。」
「そんな格言知りませんが?」
「そのあたりは九和田繁華街まで店もあらへん。信号のない道路で車で15分言うたら10kmぐらいの距離がある。乗って来た車は警官の車や。車で逃げるのは無理。それなら密室で自殺と考えたんやろなあ。密室やったら紐を使うトリックとかはよく出てくるけど、その紐を準備する時間さえ頭になくなっていたんやろ。とにかくすぐに死体が見つからないように、外から鍵を掛けたんやろ。そやから、鍵はずっとビビッチのポケットの中にあったんやろな。
そやからビビッチは戸が開いたら、一番最初に部屋に入らなあかんかった。そこで、
『大変だ、ベッドの上で殺されている!』と叫べば、みんな被害者を見るやろ。その間に鍵をベッドから離れた椅子の上に置いたんや。こうやって一見密室に見えるようにしたインチキトリックや。」
「インチキですか?テレビの推理ドラマで、似たようなトリックを使ってるのを、よく見かけますが?」
「インチキやで。誰も出入りでけへんから『密室』やねん。犯人は出入りし放題やんか。それにやなあ、被害者は生きとるんやから、そちらから話を聞けばええやん。」
5-4.ナイフの使い方と心臓の位置が間違っている
「なんで、生きとるのが分かるんですか?」
「殺人に果物ナイフを使うからや。果物ナイフで刃を下にしてつまりナイフを縦にして使うと、肋骨やその周辺の靭帯を切断でけへん。しかし、ビビッチは胸を刺した。しかも果物ナイフを刺さったままにしてしもた。これでは果物ナイフが栓になって出血多量で死亡するまで時間がかかる。ビビッチはテレビや小説の見過ぎやな。ナイフは心臓どころか肺にも届かへん。もしかしたら心臓の位置も知らんのんとちゃうか。心臓は左胸にはない。ほぼ真ん中、左胸は2/3、右胸は1/3の場所にあるんや。果物ナイフでは重傷を負わすことはできても、刺殺はでけへん。こんなことは警察学校でも教えてくれるやろ。」
「なんで警察学校で教えとると分かるんですか?」
「わかるで。面白そうやから、こっそり忍び込んで授業を受けたんや。」
「自衛隊医科大学でも同じこと言うとったで。」
「そんなところも行ってるんですか?医学部でそんなことやるのですか?」
「やらんかったから、授業が終わってから聞きに行った。」
「名前、聞かれませんでした?」
「聞かれたで。『九条立夏です。以前園遊会でお会いしました。』と言うたら『あなたが九条の。いつでもお越し下さい。』と言われて、アドレス交換もしたで。上白河先生と言う方やねんけど、有名な先生やろ。名前知っとるもん。私、毎年園遊会に行っとうから、今度お会いしたらきちんと挨拶しょう。他に友達も来るし。」
「姫様の友達って秋さんだけじゃなかったのですか?」
「実際の友達は秋と賀子と道子の3人やな。」
「賀子さんって内親王ですか。道子さんってまさか上皇后様では?呼び捨てにしたら罰があたりますよ。」
「さすが上皇后様は話題が豊富で面白いねん。賀子内親王も大学を3つ行っとっただけって、多くのことに造詣が深い。さらに、いろんな協会の役員とか外交なんかもやっとるので、面白い話が聞ける。二人とも時々メールでやりとりしとるで。できたら天皇陛下とも友達になりたいねん。」
「無茶言わんでください。姫様。」
5-5.3000万円はどこへ行く
「それでな、3,000万円の話やねんけど」
「3,000万円の行方ですか?」
「これだけやったら、判らへん。情報が少なすぎやな。」
「何がわかったらよろしいのですか?」
「被害者が生きとうから、被害者に聞くのが一番早いやろ。」
「その被害者が口をつぐんで、お金の隠し場所を言いません。」
「たかだか3,000万円。重さ3kg、高さ30cmぐらいや。3列なら高さ10cm、持ち運びには便利な重さと形や。」
「別荘の部屋にはそれらしいものはありません。」
「車は証拠物件として警察にあるんやな。」
「下のT字路に止めていた車の中にもあらへんかったんやな。車は本当に動かんかったんやろな。故障個所はどこやったんや。車はかっこいいスポーツカーなんか。衝突はパトカーで間違いないか。工具入れの中を調べたか。スペアタイヤの中も調べたか。」
「姫様は際どいところを突きますなあ。車は動きません。エンジンがオーバーヒートしてます。ラジエーターの水がありませんからこれが原因でしょう。」
「車はセダンタイプのファミリーカーというもので、スポーツカーでさえありません。工具入れは調べましたが異常なしです。スペアタイヤの中は調べさせます。」
数十分後のこと。
「3,000万円はスペアタイヤの中から見つかりました。タイヤを切り裂いて金を詰め、切り裂いたところを接着剤で留めていました。」
「何で持って行かんかったんやろ?ここでは回収できるかどうか判らへん。どっかで車を盗んで、戻って来るつもりやったんかな。」
「なぜ、車を盗むと思うのですか?」
「1回盗んだからやけど?犯人らは『かっこいいスポーツカー』で逃走したのに、九和田の別荘に着いた時はファミリーカーやった。盗んでどっかに隠しとったんやと思うで。」
「よくある手口ですな。ほとんど捕まってますが。」
「犯人の内2人は殺されかかって、1人は逃げたけど捕まるのも時間の問題。森にうかつに入れば熊がおるし。逃げようがあらへん。その上、3,000万円も手に入らんかった。踏んだり蹴ったりというもんや。」
「姫様、格言の使い方、知ってますか?」
不完全な漢字クイズ
この中に1つだけ違う
文字がたぶんあるんだ
よ。どれかな?
便便便便便便便便便便
便便便便便便便便便便
便便便便便便便便便便
便便便便便便便便便便
便便便便便便便便便便
便便便便便便便便便便
便便便便便便尿便便便
便便便便便便便便便便
便便便便便便便便便便
便便便便便便便便便便