2025年2月5日水曜日

11.連続する寺社仏閣

1.伊弉諾神社

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1-1.お菊の仏壇

秋 「すっかり冬になったなあ。」
立夏「今年は秋のおかげで、こたつがあるから大丈夫や。私は名前の通り、冬に弱いんや。」
秋 「早くエアコンを直さんかい。」
立夏「まあまあ、もうすぐ冬も終わるかも知れへんし。」
秋 「終わらん!立夏もこたつ買うたらええやん。」
立夏「私は秋と膝突き合わせて居るのんがええねん。もう、ひとりじゃ寂しいの。」
秋 「実はな、ええもん買うてん。隣の部屋にあるんやけどな。」
立夏「ええもん言うて何や。」
秋 「貴様の眼で確かめるが良い!」

立夏はふすまを開けた。

立夏「私、前から思とったんやけど、なんで秋の部屋だけ和室やのん?まあ、誰に聞いても知らんやろうけど。」
秋 「そうでもないで、知っとるかも知れんのんもおる。正面を見るが良い。」
立夏「そうか、お菊か。仏壇を買うたんか。」
秋 「一式50万円ぐらいで買えるんやな。知り合いの坊さん呼んできて50万円ほどで、戒名付けと魂入れをしてもろたんや。友だちのためなら100万円ぐらい、なんちゅうことはあらへん。」
立夏「私も拝んどくわ。」
秋 「一緒に拝もか。」
立夏「毎日拝むのん。」
秋 「別に毎日拝まんでもええけど。」(作者は父母の仏壇を、数ヶ月に1度しか拝まない親不孝者と、妻に言われています。)
立夏「なるほど、ここで拝んだら、後ろにあるお菊の碑、別名恋愛の神様も拝めるんやな。」
秋 「お菊も喜んどるんや。」
立夏「お菊の気持ちがわかるんか?」
秋 「なんとなくわかるやろ。友だちやから。」
立夏「そやな。」

1-2.淡路島は暖かい

秋 「寒かったら暖かいところに行こうな。大学も入試で休みやし。」
立夏「また、オーストラリア?今はあんまりいい季節やないで。」
秋 「じゃ、ハワイはどう?日本語も通じるんやろ。」
立夏「ハワイは日本人が多くて嫌。それに遠いし。」
秋 「海外挙式なんかだいたいがハワイやもんな。」
立夏「それやったら、淡路島はどうやろ。」
秋 「東京よりましな程度で雪は数年に1度積る程度やな。」
メグ「淡路島は一度行ってみたいです。」
秋 「メグ、いつからそこにおった?」
メグ「『すっかり冬になったなあ』あたりからですが。」 
立夏「私らがこたつに入った時からやな。」
メグ「みんなで膝を突き合わせてガールズトークなんていいですね。」
秋 「道理で足の本数が多いと思とった。」
メグ「まあまあ、気にしないで下さい。」
秋 「淡路島が暖かいか言うたら寒いで。山陰ほどやないけど。」
立夏「山陰地方といえば、『地獄の毒針』はどないしとるんかな?」
秋 「また、悪口が酷なっとうな。上谷と昴は毎週末、神戸の道場で練習しとるらしいで。いつ使うてもええいうたから、じじいに鍵借りて....」

1-3.淡路島へ行こう

メグ「それで、立夏さん、淡路島に温まりに行きましょう。」
秋 「温まるだけやったら有馬温泉の方がええで。」
メグ「有馬温泉はお兄ちゃんが恐い言うんです。」
秋 「何かトラウマでもあるんやろか?
メグ「トラウマって何ですか?」
立夏「英語ではタイガーホースという虎と馬のあいの子や。昔、宝塚ファミリーランドにおったんや。顔が虎で体が馬。人気があったんやで。閉園したけどな。」
トラウマとは、自分ではどうにもできないことで、心に傷を負った状態のこと
秋 「馬が振り向くと虎の顔、ほんまにおったら見てみたいわ。」
立夏「淡路島行きたいのん?とりあえず今日は神戸泊まりでええな。」

下山を加えた4人で新幹線に乗って新神戸まで行くことにした。

下山「座席が狭いんですが。」
秋 「極度に発達した大臀筋のせいやな。我慢やな。」
下山「もうこの筋肉も必要ありませんし。」
秋 「何言うとるん。無敵のチャンピオンのくせに。決勝まですべて1分以内の1本勝ちやったやんか。」
下山「そんなん偶然ですわ。」
秋 「このまま練習を続けたら55歳いや60歳まで現役でおれるで。」

東灘の家に着くと、上谷と昴が寝転がっていた。

じじい「午前中は基礎練習ばっかりやっとったけど、昼からはぶっ倒れるまで組手しとるで。まだ、ぶっ倒れたままか。今日も相打ちやなあ。
秋 「メグ、手伝うてくれへんか。こいつら池につけて目を覚まさせるんや。」
昴 「うわ、なんか変な虫が口から入って、飲み込んでしもた。」
秋 「それが、生きてる化石の三葉虫や。毒ではないらしいから気にせんとき。今から昴の胃液で溶けていくんや。」
昴 「気になるわ。胃の中で何かが動いているみたいや。」
立夏「三葉虫の踊り食いや。肉食らしいから胃を食い破られたら神戸九条病院がある。心配せんでもええで。」
昴 「あそこはええ病院や。王様になった気分やった。」
メグ「ねえ、昴さん。淡路島に行ったことある?」
昴 「そらあるで。神戸からやったら明石海峡大橋で一直線やで。」
メグ「今やったら何があるの。」
昴 「水仙郷がええんとちゃうか。」
メグ「みんなで行かへん?」
昴 「今回はパス。来月、全国大会の県予選と地方予選があるねん。再来月は全国大会や。上谷さんも俺も今回は全国優勝を狙っとるから、また今度な。」
上谷「俺もパス。昴と同じ理由。俺たちは全国大会の決勝で、どちらが強いかを決める。」
上谷と昴の空手はフルコンタクトの流派
秋 「すると運転できるんは下山兄だけやな。」
上谷「俺らは運転手候補やったのか!」

1-4.1月18日(土)伊弉諾神社

立夏「今日は、まず九条デパートに行く。」
下山「九条百貨店のことですか?」
立夏「デパートも百貨店も一緒。」
下山「そこで何をするんですか。」
立夏「私は免許ないのに、車ばかり持っとるから1台気に入ったのを下山にあげる。それに乗って行く。自動車保険は心配せんでもええ。」
メグ「私も免許持ってます。車はありませんが。」
立夏「メグも1台持って行き。」

下山「私にしてみりゃ、両手に花ですなあ。」
メグ「私もいるんですが....」
下山「お前は花の数に入っていない!」

4人は立川水仙郷に行って水仙を見た。

立夏「斜面一面に咲いとって綺麗やったわ。」
下山「こりゃ、斜面で転んだら命が危ないと思いましたわ。コロコロとどこまでも転がって行きそうで。」
メグ「私もちょっと太めだから、コロコロに気を付けないと。師匠は全然太っていませんね。」
秋 「昔から体型は変わってないで。体重はちょっと増えたけど。」
下山「ところで帰りに神社によってみましょうか?」
立夏「ええ神社があるのん。」
下山「伊弉諾神社。淡路国の一の宮です。
メグ「一の宮ってよく聞くけどどんな意味?」
立夏「その辺で一番、格の高い神社のことや。」
メグ「それやったら、立派な神社やろなあ。」
立夏「伊弉諾神社は立派やけど、中には寂れてしもたんもあるで。」
下山「もうすぐ、伊弉諾神社ですよ。横断者がいますね。停まりますよ。」
秋 「ちょっと、何揺らしとんのん?」
メグ「揺らしてません、揺れているんです。」
立夏「それは地震というものや!」
下山「車の中の方が安全と聞きました。」
メグ「既に理解できてます。」
秋 「大したことなかったみたいですね。」
メグ「携帯では15:45淡路島震度4となってます。特に被害はなさそうです。」

しばらく走って、車を伊弉諾神社の駐車場に停めようとしたところ、下山は駐車場の隅に黒いものが落ちているのに気付いた。

下山「これは、死体だ。警察に電話をしなければ。触ったらいかんぞ。私が電話をかける。」

立夏はポケットからビニール手袋を出して、手にはめ、胸や手首や目をいじっていた。

立夏「やっぱり死んどるな」
下山「触るな、言うたでしょう。」
立夏「もしも生きとったら、警察より病院やんか。」
下山「こんな白い顔した人なんかいません。」
立夏「白人かも知れへんし、白ペンキかも....
山「アホ言わないで下さいよ。それじゃ、メグ並みですよ。」
メグ「兄妹やのにそんなこと言うな!」
立夏「それは、それは。お褒めの言葉を....」
秋 「男というより少年やな。かなり傷が多いな。棒か何かで殴られた跡やな。左腕が変なところから曲がっているから骨折か。右腕で横から殴られたんやな。犯人の一人は右利きか。というても日本人は右利きが圧倒的に多いから、証拠にならんな。出血が少ないから移動した可能性がある。おっ、警察がやってきた。」
警官「電話をもらいました。兵庫県警淡路島分署長の井原です。」
4人「下山泰です。九条立夏です。西園寺秋です。下山恵です。」
井原「死体を見たのですか?」
4人「見ました。」
井原「どうでしたか?」
下山「死んでいると思います。」
立夏「死んでいました。」
秋 「死んでいると聞きました。」
メグ「生まれて初めて死体を見ました。」
井原「そういえば九条さん以外の3人は金メダリストではないですか。」
秋 「でも一番の規格外は間違いなく九条立夏です。」

1-5.兵庫県警淡路市分署

秋 「昨日の伊弉諾神社の死体の話、TVで言うとるわ。」
立夏「全身に打撲多数、骨折3ヶ所、死因は頭部への打撲と推定。」
下山「これは、殺人事件ということですよね。」
メグ「初めて死んでいる死体を見ました。」
秋 「死体はみんな死んどるんや。生きてる死体なんか怪奇現象やわ。」
立夏「明らかに傷が多すぎる。犯人は複数に違いない。」
下山「リンチ殺人という線が濃いですね。」
立夏「それにしても伊弉諾神社の駐車場には、血がほとんど落ちてなかった。」
秋 「どこかで殺して、車で運んで来たのかな。なんであそこに捨てたんやろ。山の中や海にでもどうとでも処理できるのに。」

立夏「証人として話を聞きたいから、9時に洲本の警察署に出てこいと言いよったな。」
メグ「だいたいのことは、昨日、現場で言いましたのにね。」
立夏「ちょっと警察から聞きたいこともあるし。」
秋 「立夏は自分から厄介ごとに首を突っ込んで行きたい性格やし。
立夏「結局淡路島泊まりになってしもたなあ。」
下山「何もこんな高額のところに泊まらんでも。」
立夏「近くに泊まれ言われたし、温泉のある宿言うたら....」
立夏「一人10万円、合計4人で40万円ほどやし、食事付きやし、温泉もあるし、まあ、大した金額とちゃうから、私が出しとくわ。カードで支払うな。」
メグ「立夏さん。金銭感覚がおかしいですよ。一体いくらぐらい稼いどるのですか?」
立夏「前も鳥取で同じこと聞かれたなあ。今は年収5億円ぐらい、月4000万円ぐらいやな。その他土地の売買などで1兆円の臨時収入があったなぁ。鳥取の時は年収3億5千万円ぐらいやったけど、夕張油田と大夕張温泉の権利が増えたのが大きいな。別に儲けようと思とるわけやないんやけど、何百億かで土地を買うたら石油や温泉が出て、勝手に儲かってしまうんや。」
メグ「不公平です。」
立夏「なにが?」
メグ「立夏さんに比べたら、うちのお兄ちゃんなんか、わずかな金を儲けるために、解説しとるのに。」
下山「安い解説で悪かったな!」
立夏「私には私の悩みがあるねん。例えば、私の収入が父を超えてもたら、会社の経営をせなあかん。みんなと遊ばれへん。私が東京大学理科Ⅲ類より早稲田大学文学部国文科を選んだんは、一緒に遊べる人を捜したかったからや。」
メグ「東大に遊びに行こうとは思とったんですか?」
立夏「難関らしいから受けてみた。難関言うてもこんなもんかと思うた。ほぼ満点やけど、理科Ⅲ類いうから理系の中で一番簡単やと思とった。医学部やとは思わんかった。別に医者になりたいわけやあらへん。早稲田で秋に出会えたから、学校の選択は間違うてなかった。」

宇宙「もしもし、警察庁の深泥警視正です。今、そちらにいる九条立夏に融通をきかせてやってくれ。機嫌が悪くなると淡路島がなくなる覚悟も必要です。そうなったら西園寺秋に仲裁を求めてください。」
井原「はぁ?何を?」
宇宙「とにかくお願いですよ。」

1-6.今川遼太

井原「被害者の身元が分かりました。神戸灘山手学園高校1年生の今川遼太16歳です。現在、詳細は調査中です。」
立夏「よく、氏名と学校名がわかりましたね。」
井原「捜索願が出ておりました。」
立夏「今川の家族は?」
井原「父・元義、母・信子と双子の妹・静、弟・秀の4人家族です。双子の妹と弟は中学3年生です。仲良し家族と近所から見られています。」
メグ「今川?どこかで聞いたことがあります。」
立夏「学校での交友関係はどうでしたか?」
井原「クラスでは目立たない子だったようで、剣道部の朝井玲奈という同級生と付き合っていたようです。特に母・信子が玲奈をとても気に入っていたようです。玲奈の成績は中ぐらいですが、かなりの美人でして....。他に同級生の黒川篤志と仲が良かったようですね。今川遼太は成績は学年でもトップクラスだったようです。それで、不良グループに目をつけられて、度々虐められていたそうです。」
立夏「虐められていたとは、どのように?」
井原「何かといちゃもんをつけては、殴っていたようです。」
立夏「それは虐めではなく、傷害事件でしょう。」
下山「思い出した。今川静と秀は、今年の全国中学校空手選手権の、男女優勝者だ。男女双子の優勝でスポーツ界ではちょっとだけ話題になった。」
立夏「私たちはそろそろ神戸へ帰ろか。」

2.東照寺

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2-1.2月3日(月・祝日)検問

警官「ちょっと待って下さい。12:00頃、そこの東照寺で殺人事件があったので、目撃者を捜しています。ご協力願います。」
下山「特に気が付きませんでした。道理でいつも空いている和田岬道路が混んでるわけだ。」
警官「それは、交通取り締まりの影響もあるかも知れません。」
下山「違反はしていませんよ。」
警官「わかってます。他の方はどうですか?」
メグ「食堂や喫茶店ばかりに目が行って、見てませんでした。
上谷「走っとる人はいなかったような....」
昴 「サッカースタジアムを見てました。」
秋 「天気を心配していました。」
立夏「知らん。温泉に行く途中やねん。」
警官「犯人は分かれへんけど、中学生と高校生はチェックしとけとのことですから、住所氏名をお願いします。」
立夏「九条立夏。理科が得意になるように立夏と名付けたらしい。今の住所は東灘の西園寺柔道場。それから、中学生でも高校生でもないわ。早稲田大学文学部国文科の1回生や。」
【立夏の名前の由来は嘘。立夏の日に生まれたから】
警官「なんで、こんなところにおるんですか?」
立夏「大学が入試で休みやから、仮の実家に来たんや。
警官「出身校は神戸やねんな?」
立夏「いや、アメリカのマサチューセッツ州立高校、マサチューセッツ工科大学や。ところで、平山警部は来とう?」
警官「平山警部に何の用があるのですか?警部はここにはいませんよ。」
立夏「ほう。すると、あそこで手を振っとるんは誰や?」

2-2.平山警部

警官「九条立夏って子が変なこと言うんです。」
平山「あの連中に逆らうと生きていかれへん。ワシは土下座で許してもろた。今は、空手の全国クラスが2人、柔道の金メダルが3人、おるんやろ。しかし一番危ないのはあのちっちゃい九条立夏という子や。わずか16歳で世界最難関の大学を卒業、ついでに論文審査で理学博士号を取り、自衛隊医科大学でも講義をしたことがあるらしいで。何十もの特許を持ち、特許だけで遊んで暮らせるが、そのうちのいくつかは戦略兵器みたいやねん。国家の最重要人物になっとって、警察庁に九条専用の部署がある言う話や。ワシは逆らって、六甲山を吹っ飛ばすと言われて、土下座した。ピストルの代わりにミサイル持っとる連中に逆らえるか?」

立夏「平山警部ちょっと車に乗ってくれへん?兄ちゃん、あんまり目立たんとこに停めて。」
下山「がってん、親分。」
立夏「さて、何が起こっとるのん。
平山「そこの東照寺というお寺の塀の裏で、14:00頃死体が発見されました全身を棒のようなもので殴られており、死因は頭を殴られたためではないかと思われます。頭蓋骨が陥没しています。」
立夏「その他は?」
平山「ポケットから封筒に入った『2』とだけ書かれた紙が見つかっています。意味は全く分かりません。」
立夏「淡路島で起こった今川遼太殺人と関係あると思う。」
平山「どちらもリンチ殺人のようで、多数の打撲がありますが、関係があるかとなるとわかりませんね。」
立夏「今川を虐めていたグループのメンバーはわかる?」
平山「後で連絡します。」

2-3.今川を虐めていたグループ

平山「今川を虐めていたグループのメンバーは、
仁井智司 神戸灘山手学園高校 2年生 ※被害者
参賀哲郎 神戸灘山手学園高校 3年生
品川寛太 神戸灘山手学園高校 3年生
出雲大志 山麓学院高校 4年生(1年留年)※ボス
以上です。」
立夏「この人たちは1月18日に何をしてたか調べましたか?」
平山「土曜日ですからたむろして遊んでいたといってます。」
上谷「2月3日も遊んでいたのですか?」
平山「途中で仁井が帰って、そのまま解散となりました。」
上谷「何の遊びをしていたんだか。」
立夏「この高校の特徴はどんなんですか?」
平山「神戸灘山手学園高校はご存じと思いますが、全国でも有名な進学校です。
立夏「私、帰国子女やから知らん。気にしたこともない。」
平山「山麓学院高校は神戸でも最低の学校といってもよいレベルです。入試では、ペーパーテストは行われず、親同伴の面接で、寄付金の多い順に合格、という学校です。毎月試験があり10万円以下は赤点です。これを『みかじめ料』と呼んでいます。この学校は暴力団川崎組が経営しており、資金集めのための学校だと思われます。組の息子は優先的に入れるという噂もあります。
下山「それでまともに授業ができるんですか?」
平山「たとえ組の者でも教員免許を持ってるのはおるから、それなりにできるようです。いくら不良でも組の者には逆らわれへんでしょう。」
下山「そういえば、俺も教員免許を持ってた。」

2-4.仁井智司

平山「次に今川家関係者についてですが、
父・元義 47歳 九条物産 課長
母・信子 43歳 専業主婦 
妹・静  15歳 掬星台中学校3年生 空手部 3段 空手女子全国優勝
弟・秀  15歳 掬星台中学校3年生 空手部 3段 空手男子全国優勝
朝井玲奈 16歳 神戸灘山手学園高校1年生 剣道部 2段 ガールフレンド
黒川篤志 16歳 神戸灘山手学園高校1年生 野球部 投手 親友
今川遼太・静・秀・朝井玲奈・黒川篤志は幼馴染です。」
上谷「こちらは、1月18日に何をしていたか調べましたか?」
平山「いいえ、調べていません。」
上谷「調べて下さい。さて、仁井は今川と同じ学校ですが、何か関係はあるのですか?」
平山「仁井が、今川と付き合っている朝井玲奈に目をつけまして、よく、今川にいちゃもんをつけていたそうです。朝井玲奈は美人ですからね。朝井玲奈にしてみれば、今川は別に男前ではないのですが、まじめで優秀な上に、優しく気が利くので、他の人と付き合うことは考えられなかったようです。朝井玲奈に振られ、仁井はそれで余計に腹を立てていたらしいです。」
上谷「黒川篤志はどうですか。」
平山「今川のいとこで仲が良く、よく一緒にいたということです。クラブに熱中し、成績は上の下あたり、今川のトップクラスに比べると落ちますが、別にそれで悔しがることもなく、試験の前なんかは、一緒に勉強していたようです。朝井も一緒だったのですが、気にしてないようで、女性に対してはかなり奥手だったようです。」
上谷「野球部はどうですか?」
平山「中学では強豪校の投手で、あちこちから誘われていたのですが、将来を考えて進学校を選んだとのことです。左の速球派投手で1年生ですでにエースになっています。今まで1回戦も勝てなかったチームが、黒川が入学した今年は準々決勝まで行ったと喜んでいます。黒川はもう少しで甲子園も狙えると言っているようです。ただ、打てない上にエラーが多く、兵庫県は強豪が多いからちょっと....
立夏「うちのチームに誘うてみようかな。」
秋 「声をかけておきましょうか?ドラフトでどうなるかわかりませんが。」
上谷「掬星台中学の2人はどうですか?」
平山「勉強はどちらも中の上ぐらいです。性格は二人とも温厚で争いごとを好みません。空手の実力は上谷さんの方がよく知っていると思います。」
上谷「どちらも抜群に強いですよ。私たちには少し落ちますが、一緒に練習してみたい選手ではありますね。」
昴 「中学生では無敵やろ?高校生の大会でも、そこそこええとこに行くんちゃうか。一度組手をしてみたいもんや。」
上谷「フルコンタクトでは、基礎がいいかげんな道場も多いですから、そのあたりはある程度できてはいるようですね。」
立夏「私たちのことも調べたん?」
平山「調べましたが、セキュリティが固く、詳しい個人情報は調べられません。例えば上谷さんの空手の成績は分かりますが、収入は分かりませんでした。役所に行っても教えてくれませんでした。どうもロックがかかっているようですね。
立夏「知っとる。九条銀行や各省庁から連絡があった。警察が九条関係者の個人情報を調べよると。私は仲間の個人情報の主なものにはロックをかけてある。九条銀行と三崎銀行、各省庁、各市町村などにあるデータは調べられへんものがあるんや。本人と私としか鍵は開けられへん。」
平山「そんなのが許されるのですか?」
立夏「許されるで。隠しとるもんを一つ教えたる。極秘事項やで。警部が他人に漏らしたら、確実に公安に消されるから気を付けてな。私と自衛隊の間に極秘協定があるんや。自衛隊は法に則って専守防衛をするが、私は宣戦布告がされたときには、一般人として攻撃兵器を使用し、相手国を直接攻撃することになっとる。日本が攻撃するんやなくて、一般人が攻撃するんや。アメリカも知っとう。攻撃兵器がある限り、アメリカは和平条約を解除でけへん。」
平山「個人の攻撃兵器。そんなもんがあるんか?強いんか?」
立夏「世界1位か2位の軍事力や。アメリカとは相打ちに持ち込めるやろう。ロシアも中国も北朝鮮も、この噂があるだけで日本に攻め込まれん。仮にロシアが日本に宣戦布告したら、数秒後にモスクワやレニングラードは地図から消えることになるねん。北朝鮮やったら2発で国土がなくなって海峡になる。韓国は韓国島になるで。
さあ、みんな温泉に行こう。」

平山警部は青白い顔をして車から降りた。
「思とったより遥かに危険な連中や。」

2-5.犯人の予想

立夏「さて、犯人は誰やろか?」
上谷「死体を運ぶのに人数がいるから、2人以上の共犯で車の運転ができる大人がいることかな?
立夏「さすが『地獄の毒針』や。」
上谷「誰が『地獄の毒針』なんですか?」
立夏「『砂丘のホームズ』と言うて欲しいのん?」
上谷「いや、まあ、そんなのは、ホームズに対して失礼かと。」
立夏「いやいや、ホームズ君よりは上やと思とうで。ワトソン君にはちょっとかなわないけどな。」
メグ「ワトソンよりホームズの方が優秀と違うんですか?」
立夏「まあ、それは解釈の相違やな。ホームズの冒険などを書いたのは、ワトソン君ということになっとるやろ。ワトソン君はホームズの間違いを修正または隠せる立場にいるんや。ホームズは多くの思い込みによる間違った推理を行っとる。」
 
上谷「さて、犯人は誰なんでしょう。」
立夏「上谷さんの言うとおり、共犯+車の運転手が条件かなぁ。」
上谷「この中で車を運転できるのは、父・元義と母・信子だけ。この二人のどちらか又は両方が事件に関わっとる可能性が高い。
立夏「今の車はゴーカートで練習すれば、そこそこ運転できるんちゃうん?私、免許がないから知らんけど。」
昴 「まあ、中高生でもできるやろなあ。」

2-6.温泉の『2』

女湯

秋 「『2』ってなんやのん。」
立夏「まだ、わからへん。」
メグ「二人目という意味かも。一人目が今川、二人目が仁井だから、『2』」
立夏「二人目ねえ。確かに二人目やねえ。殺され方も一緒やけど、でもなんか違うような。」
秋 「ああ、ええ湯やなあ。」
メグ「じゃあ2回目の殺人?一回目が今川、二回目が仁井?
立夏「さっきと変わらんがな。」
秋 「ああ、ええ湯やなあ。」
メグ「二番目ということかも。」
立夏「一番目が今川、二番目が仁井だから?どんなもんかな?
秋 「今川と仁井にどんな関係があるというんや?」
立夏「一が今川、二が仁井ではないんちゃうかということやな。
メグ「何がなんやら、全然わからない。」
秋 「ああ、ええ湯やなあ。」
立夏「こんな時『毒針』やったら、もうちょっと常識的な案を出してくれるかも知れへんのに。」

男湯

下山「『2』ってなんのことだ?
上谷「不良グループの二人目を殺す?しかし、今川は不良グループじゃないし。」
昴 「不良グループのNo.2を殺す?」
上谷「しかし、仁井は一番下っ端だし。」
下山「2年生ということでもないだろうし。」
昴 「こんな時に立夏さんがおったら、奇想天外な案を出してくれるかもしれへんのに。」

休憩所

立夏「お風呂の中で何か話しとった?」
上谷「いんや、なんにも。そっちは?」
立夏「ガールズトーク。」
昴 「ふう~ん。」
メグ「ガールズトークって何?」
秋 「はあ~~。あんた、東大生やろ。」
下山「ついつい忘れてしまう。」
メグ「兄妹のくせに....」

2-7.今川関係の行動

立夏「平山警部からメールがきたで、1月18日の今川関係の行動や。
父・元義 と 母・信子は自宅にいた。1月17日に行方不明で警察に捜索願を出した。1月18日は心配した朝井玲奈が9:00~13:00まで来て家事をやってた。13:30に黒川が様子を見に来た。
双子の弟と妹は午後から空手の試合だったので、11:30頃に家を出て12:00~17:00の表彰式まで会場にいた。途中で地震があったが一時中断しただけだった。17:30頃に帰宅した。
朝井玲奈は剣道部が休みだった。今川家が心配だったので9:00~13:00まで今川家で家事をしていた。その後は自宅にいた。
黒川篤志は9:00~13:00まで野球部の練習があった。その後13:30頃に今川家に帰宅していないか確認し、自宅に帰ってゴロゴロしていた。

2月3日の今川関係の行動は
父・元義はニューヨークに出張中だった。
母・信子は自宅にいたが、まだショックから立ち直れず、家事もできなかった。13:00頃に朝井玲奈がやってきて双子と一緒に家事をして16:00頃に帰った。
双子の弟と妹は練習が休みだったので自宅にいた。13:00頃から朝井玲奈の手伝いをしていた。
朝井玲奈は剣道部が休みだったので、友人と9:00~12:00まで三ノ宮で買い物をして食事、13:00~16:00まで今川家双子と一緒に家事をしていた。
黒川篤志は野球部の練習が午後(13:00~17:00)だったので、午前中は家でゴロゴロして12:30に出かけて17:30帰宅した。」

3.金刀比羅宮

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3-1.2月12日(水)秋のこたつでの会話

立夏「今日も寒いな。こたつが必要や。今日は暖まっとるな。」
秋 「また、私のこたつをあてにしとるんやな。昨日はスイッチ切り忘れたんかなあ。」
立夏「うん。ところで何か変わった事件あらへん?」
秋 「参賀哲郎がな....!
立夏「参賀哲郎?何か初詣みたいで、めでたそうな名前やな。」
秋 「めでたいどころの話やなくて....」
立夏「変わった名前やけど、なんかええことあったん?空くじ、おっと、宝くじでもあたったとか?」
秋 「そんなん買うたことないわ。100円の投資で、46円~47円しか戻ってこないんやから....」
立夏「それで、めでたい名前がどないしたん。」
秋 「昨日の14:00頃金刀比羅宮の前で、撲殺されとるのが発見されたんや。」
立夏「そいつは今川を虐めとった仲間やないんか?」
秋 「よう覚えとったな。」
立夏「私は人の名前をそれなりに覚えとる。」
秋 「それなりにとはどういうことや?」
立夏「時々忘れるかも知れへんと言うこっちゃ。」
秋 「体中を殴打されとったが、頭への一撃が致命傷になったみたいや。」
立夏「金刀比羅宮いうのは讃岐の金比羅さんのことか?」
メグ「讃岐の国へ行きましょう!」
秋 「神戸にも湊川公園の近くにあるんや、って、メグ、いつからそこにおった?」
メグ「『今日も寒いな。こたつが必要や』あたりで目が覚めたんですが。」 
立夏「最初からおったんかい。」
メグ「いいえ、ゆうべは師匠のこたつで寝てしまいまして。」
秋 「道理で最初から暖かいと思とった。メグ風邪ひくで。」
メグ「大丈夫です。私、風邪などひいたことがありません。」
秋 「なんやらは風邪をひかへんと言うが....」
メグ「まあまあ、気にしないで下さい。」

3-2.連続殺人

秋 「これは、連続殺人というやつと違うのん?」
メグ「どう考えても、今川関係者の復讐ですよ。」
立夏「私もそうかな?と思うけど、そうであって欲しいやら、欲しくないやら。」
秋 「それはどういう意味や。」
立夏「例えれば、赤穂浪士は吉良邸に討ち入りをしたが、せんでもよかったのではないかということや。」
メグ「さっぱりわかりませんが、討ち入りして切腹になったんでしょ。」
秋 「立夏、例え話は禁止や、いつも相手に伝わらへん。」
メグ「師匠の言葉通り連続殺人事件なんですよね?」
立夏「多分そうやろなあ。まあ、殺されても仕方ないんとちゃう。」
メグ「私、探偵になってら連続殺人は初めてなんです。」
立夏「メグは探偵と違う。探偵として雇われとうと思うんやったら、即降格や。」
メグ「私は秘書です。降格にしないで下さい。」
立夏「秘書として働いてな。」
秋 「さて、連続殺人事件やったら同じ犯人になるわなぁ。」
立夏「そりゃ、そうなるわなぁ。」
秋 「そしたら、犯人は今川関係者6人のうちの、誰かと誰かとなるなぁ。」
立夏「そりゃ、そうなるわなぁ。」

3-3.2月11日(火・祝)参賀哲郎のその日の行動

立夏「ちょうど平山警部よりメールが来とるわ。」
秋 「図ったようなタイミングやなあ。
立夏「『いつもお世話に....』この辺は飛ばしてと『当日参賀の行動についてお知らせ致します。彼には尾行が着いています。元町北側のマンションに父と二人で住んでいます。父は朝7時ごろに出勤、参賀は8時ごろ起床、郵便受けの手紙をポケットに入れ、学校をサボリ、元町商店街をウロウロ、12:35昼食のうどんを食べ、学校の方へ歩いて行ったが、13:00信号無視で道路を走って横断して尾行ができなくなったとのことです。』」
秋 「尾行がバレとったわけやな。」
立夏「多分そうやろなあ。また平山警部からメールが来たわ。『先ほどの続きですが、もう一人を学校の前に違法駐車させて、登校するのを待っていましたが、参賀は現れませんでした。』」
秋 「どこに行ったんでしょうか?」
メグ「山にでも登っていたのでは?」
立夏「メグの言うことやけど、案外的外れでもないかも知れへん。もしかしたら、当たっとるかも。うまくおびき出せたら、殺すのには山は最適や。」

3-4.2月11日の行動

品川寛太は、学校の補習で9:00~10:00まで学校にいた。その後、自宅にいた。
出雲大志は、三ノ宮付近でうろうろしていた。

父・元義は、ニューヨークからサンフランシスコに移動中。
母・信子は、自宅。
妹・静は、午前中は家事。13:00~17:00朝井玲奈と一緒に三ノ宮から元町へ買い物(バレンタインのチョコレート)。
弟・秀は、六甲山登山(6:00~16:00)。
朝井玲奈は、午前中(9:00~12:00)剣道部の練習。13:00~17:00今川静と一緒に三ノ宮から元町へ買い物(バレンタインのチョコレート)
黒川篤志は、練習試合(12:00~17:00)午前中は自宅。

4.善光寺

 google maps

4-1.品川寛太

立夏「もしもし、品川さんのお宅ですか?寛太さんですね。」
品川「はあ、品川寛太やけど。」
立夏「仁井さんと参賀さんが殺されたのはご存じですね。」
品川「知っとるけけど、あんた誰や?警察?」
立夏「警察と思ってください。あなたの安全を守ろうとする者です。」
品川「なんやそれは。俺はあんなどんくさい連中とは違うで。」
立夏「明日、朝、迎えに行くから、それまで家でじっとしてて下さい。」
品川「嫌やな。俺を捕まえに来るんやろ。」
立夏「言うこと聞かんと、殺されるで。」
品川「俺の勝手やろ。うるさい!」

立夏「電話切られてもたわ。」
上谷「なんとか保護しないと殺されます。死体はたぶん善光寺に捨てられます。」
立夏「何で善光寺とわかるのん?」
上谷「何でって、4人目は善光寺でしょう。」
立夏「?????」

嘘夢「あ~き~ち~ゅ~ん~。」
秋 「なんや、嘘夢か。久しぶりやな。どないしとったん。」
嘘夢「あきちゅんの霊力が『世界遺産のお菊』を呼べるほど強くなって、夢の中でしか存在しない私は、だんだん出れなくなっていくんですわ。」
秋 「そういや、この頃、白いオタマジャクシも見んようになったわ。」
嘘夢「今回の予言です。事件の数に注意して下さい。」
秋 「なんか今度は当たったような気がする。」                                            嘘夢「ほんならこれで、もう会えないかも知れませんで。」                               
4-2.2月24日(月・祝日)西園寺家

平山「立夏さん。大変です。品川が殺されました。14:00頃死体が発見されました。」
立夏「すぐ行くわ。善光寺やな。場所は調べとう
平山「何で死体の場所がわかるんですか?」
立夏「ひ・み・つ 運転手の上谷か昴か下山兄おらへんか。」
秋 「今日は平日や。職場に帰った。今おるんは、立夏とメグと私だけや。」
立夏「じゃあ、おとうさんとおじいさんは?」
秋 「親父と老いぼれは朝酒しとる。私の給料で。」
立夏「学生に仕送りしてもろとる親は、おかしないか?」
秋 「給料の250万円の内、毎月100万円仕送りしとう。」
立夏「親孝行やな。」
秋 「仕送りをあてにして自堕落な生活を送りよるか!」
秋 「とりあえず、タクシー呼んどいたで。」
立夏「ありがと。」
メグ「私も行くんですか?」
秋 「秘書やのに行かへんのん?」

4-3.三崎銀行鳥取支店

秋 「とりあえず、『砂漠のコナン』を呼んどくわ。」
立夏「最近、調子に乗っとうからな。もっと調子に乗せないかん。」
秋 「もしもし秋です。急ですまんけど、神戸に来て下さい。」
上谷「では、午後の『スーパーはくと』で参ります。」

上谷「急なことで申し訳ありませんが、神戸へ行ってきます。」
甘口「いつも済まないねえ。」
行員A「最近、上谷課長、出張が多いわね。」
行員B「狙ってる人、多いみたいよ。」
行員A「男前で仕事もよくできる。空手やってて鳥取県で優勝してるみたいよ。」
行員B「文武両道ってあの人のことを言うのよね。」
甘口「最近、明るくなって、よく喋るると思わないか?」
行員B「それに優しいし。結構、金持ちらしいわよ。一人暮らしだし。炊事、洗濯、掃除などの家事は一通りできると言っていたわ。」
行員A「もしかしたら、ブランド品、買い放題かも。」
甘口「そんな店ここらにはない。そろそろ仕事をしなさい。」
行員AB「は~い。」
甘口「みんなもお客様の前では、見せかけだけでもきちんとして下さい。お客さまは、打ち出の小槌です。みんなのお給料を負担してくれているのです。」

4-4.品川の追跡

品川の2月24日の行動です。
7:00起床。8:00に発車寸前の電車に飛び乗り、追跡をまく。
学校には来なかった。

4-5.2月24日の関係者の行動

出雲大志は、三ノ宮~元町付近でうろうろしていた。

父・元義は、自宅で休養。
母・信子は、町内会の旅行(8:00~17:00)。
妹・静は、町内会の旅行(8:00~17:00)。
弟・秀は、町内会の旅行(8:00~17:00)。
朝井玲奈は、午前中(9:00~12:00)剣道部の練習。
黒川篤志は、練習試合(12:00~17:00)午前中は自宅。


5.出雲大社

 google maps

5-1.出雲と上谷と昴

上谷「出雲さん、いらっしゃいますか?」
出雲「こんな朝早うから、うるさいんじゃ。ボケェ。」
昴 「もう11時やで、噂にたがわぬアホやな。」
立夏「警察庁の九条立夏です。ちょっと、お話があるんですが....」
出雲「俺は話なんかあらへん。なんで、中学生が警察やっとるんや!」
立夏「中学から身長が伸びてないだけや!文句言うんやったら、尻から手突っ込んで奥歯ガタガタ言わすぞ。コラァ。」
秋 「まあまあ立夏、そんなことやったら、便が手につくことになるで。あっ、警察庁の西園寺秋です。」
出雲「うるさい言うとうやろ!泣かしたろか?俺は柔道3段、空手3段やぞ。」
秋 「私、泣かされちゃう。」
立夏「よう、そんな大嘘を....」
昴 「ほう、強そうやん。どうせ口だけやろけど。」

昴は出雲の蹴りは簡単にかわして、昴の蹴りが見事に出雲に決まった。出雲はもんどりうって倒れた。

上谷「弱~。お前本当に3段なんか。モロに決まったぞ。」
昴 「やっぱり、口だけ3段やった。今の蹴りは上谷さんでも軽くかわすで。」
上谷「『でも』ってなんだよ?」
昴 「気にしない、気にしない。」
上谷「そうか、気にしなくていいのか。」

出雲「くそ、うるさいわ!もうひとりの方じゃ。」
上谷「昴に簡単にやられる奴が、俺に勝てるとでも思ってるのか?」
昴 「なんか、上谷さんの方が強いように聞こえるねんけど。」
上谷「気のせい、気のせい。」
昴 「な~んや、気のせいか。」

出雲の蹴りを交わすと、上谷は唄を歌って飛び上がった。

上谷「♪今だ チャンスだ 真空飛び膝蹴りだ♪あっ、当たっちゃった。」
昴 「あ~あ、白目剥いてのびてしもたで、あんな技をまともに喰らうか。」
真空飛び膝蹴りはキックの鬼と言われた沢村忠の必殺技。飛んで落ちる勢いと飛び膝蹴りの力を合わせた技
上谷「かわすと思とったんだが、こいつ足が全然動いとらんから当たってしまった。ほんまに段持っとるんか。というより、こんなんで番長を張れるのか?」
昴 「真空飛び膝蹴りがきれいに決まるのん、初めてみたで。」
上谷「とりあえず、シバいてみるか。ほら、起きんかい。」
出雲「う、う。二人ともめちゃくちゃ強いやないですか。」
立夏「上谷さん、昴、弱い者いじめしたらあかんで。適当に手を抜いてな。」
出雲「俺、弱い者なんですか?」
立夏「そうや。秋とやってみるか?秋は弱いで。」
秋 「私は柔道初段です。めっちゃ弱いですよ。いじめないで。」
出雲「よく見たら、金メダルの半殺しの人やないですか。」
立夏「バレたな。上谷も昴も異種格闘技で、秋に手も足も出せずに負けとうからな。たぶん、締め落とされるんとちゃうか。」
出雲「なんか、あんたが一番強そうに見えるんやけど。」
昴 「そうや。九条さんが一番強い。腕っぷしは弱いけどな。そやけどあんたは3段や言うから、もっと強いと思たんやけど。」
上谷「弱いくせに格好つけよるから、つい、調子に乗ってしまいました。」
昴 「上谷さんはともかくも、俺の顔も知らんとは、ほんまに空手しとるのん?」
出雲「中学までやってたんです。結構、自信があったんですが。皆さんは?」
上谷「昴は兵庫県代表、全国3位で4段、俺は鳥取県代表で4段。」
昴 「上谷さんも俺も実力は変わらへんで。」
出雲「済みません。私が悪かったです。許して下さい。正直に答えます。」
上谷「顔面が緑色になるほど俺が恐いと言うんか!心配せんでも殺さへんから、半殺しまでで許したる。」
立夏「まあまあ、アマガエルみたいな顔せんでええ。それで出雲さん、今川を殺しといて、自分だけ生き残ろうという腹やなかったやろな?
出雲「すいません。今川を殺しといて自分だけ生き残ろうという腹でした。
秋 「なあ~にい~。仲間を売ってまで自分だけ助かろうという、卑怯なまねはせんかったやろな。」
出雲「俺は仲間を売っても自分だけ助かりたいと思とった、卑怯な男です。もっとも仲間言うても、もう誰もいませんので、売れませんが。
立夏「ほんまに他に仲間は誰もおれへんやろな。」
出雲「本当にもう俺だけです。守って下さい。」

5-2.出雲保護

立夏「これから神戸九条総合病院に入院せえ。すぐに準備。さっき白目剥いて意識がなかったから病気かも知れへん。」
昴 「上谷さんの真空飛び膝蹴りで失神したんやんか。」
立夏「言うこと聞けへんかったら、もう一遍、真空飛び膝蹴りで白目剥いたまま病院に運びこむで。」
出雲「言うこと聞きます。」

出雲「こんな病室見たことありません。」
立夏「この階へは限られた人の生体認証でしか入られへん。あなたには鍵を渡すから、それで電子ロックを外して出入りしてええ。衣食住は保証するから、面会は全て断れ。自分から出ていかない限り安全は保障するわ。」
秋 「一応、うつ病となっとるから、いくつか検査を受けてもらう。大人しくしとかんと叩き出すで。」
立夏「病室の整理が終わったら、応接室で待っとく。急がんでええ。」
出雲「お話があるのでしょうか?」
立夏「出雲さん。犯人は誰や。」
出雲「わかりません。」

5-3.数え歌

上谷「君で最後だ。君は殺されて出雲大社の前に屍を晒すことになるのだ。」
出雲「あなたが幽霊好きのホームズさんですか?何でそんなことがわかるんですか?」
上谷「君は数え歌を知っているか?毬付き唄かな?

一番はじめは一の宮
二は日光東照宮
三は讃岐の金比羅さん 
四は信濃の善光寺
五つ出雲の大社(おおやしろ)
まだまだ続くんだけどね。

これは、韻をふんでいるよね。これを今回の事件に当てはめると、

一番今川一の宮(ちはまがわいちのみや)
二は仁井が東照寺(いがとうしょうじ)
三は参賀が金比羅さん(んはんががこんぴらさん)
四は品川が善光寺(ながわがぜんこうじ)
五つ出雲が大社(つつずもがおおやしろ)
大社(おおやしろ)は出雲大社のこと

次は出雲の死体が出雲大社で見つかることで、この連続殺人事件は終わる。」
立夏「そうか。気が付かんかったというより、その歌は知らへんかった。」
出雲「俺、知っとったけど関係あるとは思わんかった。」
上谷「ばあちゃんが良く唄ってたから、自然に覚えた。まさかな?と思とる間に事件が進んでしまった。」

5-4.偶然から必然へ

上谷「なぜ、今川の死体をあんなに目立つところに置いたのか?」
立夏「最初、今川の死体は、淡路島の山中にでも埋めるつもりやったんやろ。ところがそこで予想外のことが起こったんや。地震や。検問でも張られて、トランクの中の死体を見つけられると言い訳できない。打撲傷や刺傷がたくさんある や。とにかく死体をそこらに下ろして、すぐに淡路島から離れなければならない。こうやって目についた駐車場に今川の死体が置かれることになった。」
秋 「運転はだれがしたん?」
立夏「出雲や。1年留年しとうから、19歳で免許を取ったんやろ。」
出雲「ちゃいます。うちの学校は免許が欲しけりゃ、18歳でも適当な証明書を書いてくれるんですわ。」
立夏「まあ、18でも19でもええけど、うらやましいなあ。私は免許取られへんから。」
上谷「淡路一の宮の伊弉諾神社の前やったのは偶然だった。」
立夏「次は仁井の死体やが、警察がやたらと多いので自分たちを捜しとるのと勘違いして、死体をトランクから出して塀の陰に置いた。そこが偶然東照寺やった。偶然が起こったことに驚いた犯人グループだったが、『2』の紙を持たせることを思いついた。1は自分らが犯人と違うから。

上谷「ところが仁井に『2』の紙を持たせたことで、偶然が必然に変わった。参賀の死体は『3』の紙を持って、金刀比羅宮に置かなくてはいけなくなった。そして、品川は『4』の紙をもらって殺され、死体を善光寺の前に置かれることになった。そして今度は『5』の紙を持つ出雲が殺されて出雲大社に置かれるんことになるんだ。
出雲「そんなん嫌や。 他人事みたいに言わんといて!」
上谷「そう言われてもなあ。はっきり言えば、他人事だし、因果応報というか、自業自得というか。原因を作ったんが君たちやから、仕方ないのと違いますか?」
出雲「親分だけ殺されない、というわけにはいきませんか?」
上谷「努力はしてみますが、個人的には犯人に同情しているのもあるんですよ。」
出雲「殺されるのは嫌です。」
上谷「誰でも嫌でしょう。今川もね。殺されようとする気持ちわかりますか?するのはいいけど、されるのは嫌なんですか?俺は殺人はしないけど、殺されて幽霊になれるなら大歓迎ですが。」
立夏「ホームズの言葉は参考にせんといてな。忠告しとくで。ここに来るまでに何回かの関門を通らなあかん。エレベーターでさえ仕掛けがあるねん。施錠は2ヶ所やねんけどな。このフロアの入り口に部屋があるやろ。あそこには今日から公安が詰めるねん。警察やから何かあったら逮捕できるだけでなく、犯罪を未然に防ぐのも仕事やから、怪しい奴は通さへん。今までそんな仕事をしたことはあらへんけどな。ここに籠る限りは監獄よりよほど安全や。住み心地もええし。外出したらあかんで。ほんまにホームズさんが言うた通りになってしまうで。

5-5.事件の数

秋 「私の嘘夢が言うた。『事件の数を間違えるな』と。これは一見2つの事件に見える。じゃあ、3つの事件か?それは考えにくい。すると1つの事件と考えるのが妥当やろか?」
立夏「あいつの言うこと信じられるんか?」
秋 「今度こそと期待してしまうねん。今度こそ当たりが来るんちゃうかと。」
立夏「秋の感を信じるとして、『事件の数』とは何やろか。」
上谷「一連の事件の犯人はひとりまたは数人ではないのでしょうか。1月18日の事件では、立夏さんたちが死体を発券したのが16時前ですから、その時犯人は淡路島にいたのでしょう。この時、淡路島に行けるのは、双子以外の人全員、2月3日の事件は、交通取り締まりをやってたのが、12:00~14:00ぐらいですから、父・元義と朝井、黒川は死体を運ぶことができなかったでしょう。」
立夏「すると、2月11日は、母・信子、弟・秀以外は全員死体移動不可能となる。2月24日は、父・元義と朝井玲奈の二人しか死体移動ができんかったことになる。」
上谷「これをまとめると、

   1/18 2/3 2/11 2/24 運転
元義 〇  ×  ×   〇  〇
信子 〇  〇  〇   ×  〇
静  ×  〇  ×   ×  ×
秀  ×  〇  〇   ×  ×
朝井 〇  ×  ×   〇  ×
黒川 〇  〇  ×   ×  ×

これを見る限り単独犯は不可能ということになる。
ところが、これにもう一人の関係者を付け加えると、
  
   1/18 2/3 2/11 2/24 
出雲 〇  〇  〇  〇   

となる。つまりこの事件は出雲大志の単独犯と言うことや。」

出雲「ちくしょう、はめやがったな!」
上谷「それがどうした。言うこと聞かん悪い子はこうだ!」
出雲「また、真空飛び膝蹴りか?」
秋 「と見せかけて後ろから私の締め技。あ~あ、落ちるの早~。もうちょっと抵抗せえ。と言いながら鍵を取り上げといたろ。」
立夏「秋、外の公安に言うて、逃走の可能性ありとして、緊急逮捕を要請して。」

立夏「今回は長かったな。私、数え歌知らんかったからなぁ。もっと遊ばなあかんなあ。それにしても出雲は『地獄の毒針』に刺されて終わってしもたなあ。」
上谷「誰が『地獄の毒針』なんですか?



6.一番はじめは一の宮

一番はじめは一の宮
二は日光東照宮
三は讃岐の金比羅さん 
四は信濃の善光寺
五つ出雲の大社(おおやしろ)
六つ村々鎮守様
七つ成田の不動様
八つ八幡の八幡宮
九つ高野の弘法さん
十は東京招魂社(靖国神社)

これほど心願かけたのに
浪子の病は治らない
武男が戦争に行くときは
白い真白いハンカチを
うちふり投げてねえあなた
早く帰ってちょうだいね
ごうごうごうと鳴る汽車は
武男と浪子の別れ汽車
二度と逢えない汽車の窓
鳴いて血を吐くほととぎす